いつまでもアメリカン。http://foreveramerican.blog89.fc2.com/ --- 感触 --- -- 1 -- 「で、話って何?」 会社の近くのドトールの狭い席。 僕の向かいに座る後藤さんは、ロイヤルミルクティーをすすりながら、億劫そうに聞いてくる。 「ちょっと相談があって……」 「へ~、どんな?」 「恋愛のことで……」 そう口にした瞬間、後藤さんの眉間に皺がよる。 後藤さんは、会社の先輩。 さばさばした姉御肌の人で、後輩たちはよく彼女を頼って相談相手にしている。 ただ、40近くで未だに独身であることを、心の底ではかなり気にしているらしく 恋愛関係の話をすると、あまり良い顔はしない。 「どうして皆、私に恋愛相談しようとするのかしらねぇ」 ため息をつくように、またミルクティーを飲む。 「何か、あてつけ?」 そう言って、意地悪そうに微笑む。 「いや、別に……」 こんな風に後輩をあしらうのも、彼女の特徴だ。 「とりあえず、話してみてよ」 ひとまず、聞いてくれる気になったらしい。 気になる人がいる。 その人は会社の人で、一緒に働くようになって数年経つ。 けれど、飲みに行ったり、遊びに言ったりという程、仲が良い訳でもなく あくまで会社の中だけの関係だ。 それがあることがきっかけで、気になる存在になり 日を追うごとに、僕の心の多くの部分を占めるようになってきた。 「社内恋愛はお勧めしないけどね~」 それは痛いほど分かってる。 「上手く行かなかったら、ギスギスしたまま仕事続けるわけでしょ?」 「いや、まだ、どうこうって言う具体的なものは見えなくて……」 「何それ?」 「自分でもよく分からないんですが……」 「それって、本当に好きなの?」 憧れ、同情、気の迷い、勘違い。 感情の候補はいろいろあるけれど、どれとも違う。 「まぁ、私もよく分からないのよね」 ミルクティーのカップは空になってしまったので、水に手を伸ばす。 「付き合いたいとか、手を繋ぎたいとか、キスしたいとか、セックスしたいとか、結婚したいとか」 具体的事例を並べて、少し考える風に、後藤さんは続ける。 「何処からが恋愛って言うのか、明確な境界線ってないもんね」 そこが僕も困っているところだ。 「ところで、相手は誰なの?」 後藤さんは、興味津々な顔をして聞いてくる。 この人は、きっと会社で一番、人間関係を知っている人だろう。 でも、名前を出すことはどうしても憚られた。 「言いたくないなら良いけどね」 でも、言っておかなきゃならないポイントが、一つだけあった。 「実は……」 「うん」 「相手は、男性でして」 口に含んでいた氷を、ガリ、と噛む音がする。 「はあ?」 後藤さんは、持っていたコップをテーブルに置くと、急に声のトーンを下げた。 「それって、こんなとこで話す話題?」 「いや、あんまり……」 「時間あるなら、場所変えようか」 そう言って、大きなカバンを持って立ち上がる。 女性のカバンは、どうして皆そんなに大きいのか。 一体、何が入っているんだろう。 って言うか、電車の中で凄くジャマなんですけど。 いつも感じている疑問が頭の中に浮かんできつつ、僕も続いて席を立つ。 -- 2 -- あれは、半年くらい前のこと。 測量図面の納期直前で、設計チームの大半が徹夜で作業していた時だ。 その数日前から、睡眠時間が削られるほど仕事に忙殺されていた僕は 寝不足と疲労から、社内で倒れてしまったことがあった。 気がついたときは、狭い休憩室に寝かされており 側には、先輩の清水さんが座っていた。 「今、何時ですか?」 僕が声をかけた時、清水さんも睡魔の虜になっていたようで ハッと顔を上げ、眼鏡を直し、僕の方へ視線を向けた。 「ああ、気がついたか。今……5時過ぎくらいかな」 「すみませんでした。作業はどうですか?」 「一通り終わったから、大丈夫」 作業が終わったと言うことにホッとしつつも、肝心なところで迷惑をかけた自分が情けない。 「具合はどう?」 「まだちょっと目眩がしますけど、大丈夫です」 「少ししたら始発出るから、それで帰ると良いよ」 清水さんはそう言って席を立ち、冷蔵庫からお茶のペットボトルを取り、手渡してくれる。 「でも、今日納品ですよね?」 「CADチームにお任せ。後藤さんにも言ってあるし」 CADチームは土曜出勤か。 それはそれで、申し訳なさが立つ。 「もう少し休んでなよ。時間が来たら起こすから」 彼を見上げる僕の額に、手が触れた。 前髪を掻き揚げるように、優しく撫でられる。 ゆっくりと顔が近づいて来て、額に唇が触れた。 優しい笑顔を見せて、清水さんは部屋を出て行く。 驚きと戸惑いが僕を硬直させる。 でも、そのキスは酷く自然な感じで きっと、彼は誰にでもああ言う感じで接しているんだろう、そう思うことにした。 そう思わないと、気持ちが落ち着かなかった。 「五十嵐、そろそろ始発出るぞ」 同僚の関の声に、ぼんやりしていた意識が戻る。 立ち上がると、少しふらつきはするが、歩くのには問題は無い。 むしろ、慣れないソファで横になっていたせいか、腰が痛む。 PCの前で突っ伏して仮眠していたであろう皆に、そんなことは言えないけれど。 それまでも、それからも、清水さんと二人で話す機会は殆どなかった。 仕事の指示や打ち合わせを除けば、顔を突き合わせることも無い。 なのに、僕はいつしか、目で清水さんを追う様になって行った。 初めの内は、無意識だった。 やがて、その行動を自省するようになっていく。 こんなこと、誰かに気がつかれたら、まずいと思っていたからだ。 ある時、新規案件の打ち合わせに行くという清水さんに、同行することになった。 通常は違う人間が行くのだけれど、急に別件が入ったということで、代理を仰せつかったのだ。 心の中では嬉しかったが、これは仕事。 気持ちを切り替えなければならないと思うと、妙に緊張してしまう。 多分、出先への道すがらでの会話も、かなりぎこちなかったんだろう。 「五十嵐君、疲れてる?」 何回も、清水さんはそう聞いてきた。 「いえ、大丈夫です」 そう答えるのが、やっとだった。 あの時からの心の変化の正体を、やがて自覚する。 僕は、清水さんを、好きになってしまったんだ。 彼を思う度、額に感触が蘇る。 もう一度、あの気持ちを味わいたかった。 -- 3 -- 後藤さんと入ったのは、こじゃれた居酒屋だった。 全ての席が個室という店で、話の内容に気を遣ってくれたのだろう。 「私は~……ジントニックで。五十嵐君は何にする?」 「あ、僕はウーロン茶で」 「何よ、飲まないの?」 決して飲めない訳ではないけれど、飲むと陽気になり、口数も多くなる。 こんなところで飲んでしまったら、何を話すか分からない。 「飲めないって言えば、清水君は下戸なのよね」 思わぬ名前が出てきて、心臓が縮まる思いがする。 「そ、そうなんですか?」 「煙草吸うのに酒は飲まないなんて、珍しいわよね~」 後藤さんは、僕の知らない清水さんを知っている。 社歴を考えれば当たり前のことなのに、少し悔しかった。 程なく、飲み物が運ばれてくる。 後藤さんは、メニューから適当に食べ物を選び、追加オーダーした。 店員さんが去ると、本題に入る。 「で、さっきの話なんだけど」 ジントニックに口をつけながら、後藤さんは僕の顔を見る。 「本当なの?五十嵐君、そのケがある訳?」 「いや、そう言うわけじゃないんですが」 「ふ~ん……」 僕を見る目が、少し変わった気がした。 しばらくすると、頼んだ料理が運ばれてきて、テーブルはあっという間に一杯になった。 「梅酒をロックでお願いします~」 後藤さんは、愛想良く、酒を追加注文した。 引き戸が閉まると、話を続ける。 「私も一応、女だからね」 それくらいは見れば分かります、と言う言葉は飲み込んだ。 「男が男に恋する感情って、想像もつかないのよ」 困った表情の後藤さんを見て、更に困らせるような質問を思いつく。 「後藤さんは、女性を好きになったことは無いんですか?」 眉間の皺が、更に深くなる。 「う~ん……無いかなぁ」 梅酒ロックがやって来る。 指で氷をくるくる回しながら、何かを想像しているらしい。 「もし、仮に、私が女の子から告白されたら」 一瞬天井に目をやって、僕を見る。 「悪い気はしないかな。その後どうこうってことは抜きにしてね」 「そんなもんですか?」 「同じことが、他の人にも、ましてや男性にも言えるかどうかは、分からないけど」 そう言いながら、出汁巻き卵をつまみに、梅酒ロックを飲んでいる。 「逆に、私が女の子を好きになったら……」 目を瞑り、やっぱり困ったような表情で、妄想を広げているようだった。 「告白するよりも先に、行動で示すかもね」 「って言うと?」 「ハグしたり、キスしたり、とか?」 休憩室での光景を思い出す。 あの彼の行為の意図を、僕は未だに掴みきれていない。 「相手の彼も、そう言う素振りがあったりした訳?」 答えに迷う僕を見て、後藤さんは言った。 「まぁ、何があったにせよ、あまり結論を急がない方が良さそうよね」 ふと、心配そうな表情を見せる。 「お互い、修復出来ないほど傷つくリスクが高すぎるでしょう?」 人間、やっぱり自分に都合が良いように考えるもので あの日以来、清水さんはもしかして僕のことを思ってくれてるんじゃないかと 心の何処かで信じてしまっている。 でも、冷静に考えれば、そんな可能性はとてつもなく低くて 後藤さんの言う通り、僕が突き進んでいくことで、清水さんを傷つけることにもなる。 もちろん、僕の心も、どん底に落ちるかも知れない。 「好きって気持ちを抑えろとは言わないけど」 「はい……」 「もうちょっと、時間を置いても良いんじゃないかな」 それまで、話はいつでも聞いてあげるから、後藤さんはそう優しく諭してくれた。 テーブルの上の料理も殆ど食べきった頃、後藤さんが思い出したように話す。 「そう言えば私ね、来月、入院するのよ」 「えっ?何か病気ですか?」 「うん、ガンになっちゃった」 あまりに軽く言うものだから、思わず受け流すところだった。 「この間の会社の健康診断で受けたオプション検査で分かったんだけどね」 後藤さんの病名は、子宮頸ガン。 最近では20代でも罹患する人が増えているそうで、幸いにも後藤さんは極初期なのだと言う。 「だから、10日くらい入院して、1週間休んで、また復帰するわよ」 「転移とかは無いんですか」 「今のところは無いの。それだけが、本当に不幸中の幸いよね」 -- 4 -- 後藤さんが入院する数日前。 僕は、彼女の仕事を引き継ぐ為の資料作成を任されていた。 社内の仕事はある程度落ち着いていて、残業は久しぶりだった。 時計は9時を回り、区切りもついたので、帰途につく。 駅前まで行くと、良く知った顔を見かけた。 一人は後藤さん、そしてもう一人は、清水さんだった。 道を歩く二人はとても仲が良さそうで、しばらく目が釘付けになる。 駅へ向かってくる気配に気がついて、つい手前のコンビニに入ってしまった。 後藤さんは、男女問わず人望もあって、社内の人間と出かけることも多いそうだ。 僕だって、この間は二人で飲みに行っている。 そう考えれば、清水さんと一緒にいることも、別におかしいことじゃない。 それなのに僕は、後藤さんへの気持ちと、清水さんへの想いの狭間で 自分の中の卑しい感情を、思い知ることになる。 「暇があったら、美味しいものでも持って来てくれて良いのよ」 後藤さんは、そう言い残して、休職期間に入った。 そこまで言われて、行かない訳にもいかないのが下っ端の辛いところ。 あの夜のことを思い出して、モヤモヤする感情はあったけれど 機会があれば、そのことも聞いてみよう、そんな風に考えていた。 後藤さんが入院している病院は、会社から近い場所にある。 総合病院でありながら、ガン治療に力を入れているということで 遠方から来ている人も少なくないと言う。 「わざわざありがとうね」 久しぶり、と言っても1週間ぶりくらいに会う後藤さんは、心なしか疲れた顔をしていた。 「寝るしかすること無いから、無駄に疲れるのよ」 そう言って、笑う。 「これ、良かったら」 美味しいものと言うご指示通り、家の近くのデパートで人気だと言うさつま揚げを差し出す。 それを見た後藤さんは、楽しげに言った。 「いい趣味ねぇ。見直したわ」 褒められているのか、馬鹿にされているのかは分からなかったけれど、心証は良いようだ。 しばらくたわいも無い話をした後、僕は、聞きたかったことを切り出した。 「そう言えば、この間、清水さんと飲みに行ったんですか?」 ふっと、表情が変わった気がした。 「ああ、ちょっとね」 含みのある言い方だった。 「よく二人で行かれるんですか?」 その質問に、後藤さんは僕の表情を窺う。 「……まあね。付き合い長いし」 いつもと違う雰囲気が、良くない想像を巡らせる。 その時、僕の後ろからガラガラと、何かを引く音が聞こえた。 「ああ、もうお昼なのね」 昼食を載せたワゴンがやってきたらしい。 「まだ時間あるでしょ?お昼、一緒に食べようよ」 後藤さんの表情は、いつもの明るい笑顔に戻っていた。 この人のペースに一旦乗せられると、降りるのはなかなか難しい。 何故か、僕の前には後藤さんの病院食が 後藤さんの前には、病院の中に入っているコンビニで買った弁当があった。 「病院食、飽きちゃったのよね。それ、栄養考えられてるから、なかなか良いわよ」 そう言うなら自分で食べれば良いのに。 「折角だから、持って来て貰ったさつま揚げも頂こうか」 明るく振舞う後藤さんには、これ以上何も聞けそうも無い、そう思っていた時だった。 「清水君のこと、気になる?」 突然の質問に、手が止まる。 思わず、視線を逸らす。 「分かりやすいね、五十嵐君」 後藤さんは、何処か意地悪そうに微笑んだ。 僕が食べた病院食の食器を、後藤さんはワゴンへ戻しに行く。 後藤さんに相談したことを、ここに来て後悔し始めていた。 誰にも言えない秘密を、彼女だけが知っている。 それが急に、怖くなってきた。 「いいタイミングね」 向かい合うように座った後藤さんは、僕の背中越しにラウンジの外を見て、そう言った。 「デザートが来たわよ」 -- 5 -- 後藤さんの視線の先には、清水さんが立っていた。 驚きで、とっさに声が出なかった。 「五十嵐君、来てたんだ」 「一緒にお昼食べてたのよね」 「ええ、何故か、成り行きで……」 清水さんの手には、会社の近くにある洋菓子屋の袋が提げられていた。 「何か飲み物買ってくるわ。お茶でいい?」 後藤さんはそう言って、席を立つ。 「ちょっと待っててね」 清水さんは促された通り、僕の隣に座る。 さっきまでのやり取りもあって、余計に緊張してしまう。 なかなか、会話の糸口が見えずに困惑しているところで、後藤さんが戻ってくる。 「あなたたち、仲悪いの?」 押し黙ってしまっていた雰囲気を察し、怪訝そうに聞いてくる。 「そう言う訳じゃないですけどね」 「なら良いけど」 清水さんが持ってきたお土産を開けながら、後藤さんは清水さんを見る。 何かを企んでいるような、そんな目をしていた。 一通りの雑談の後、後藤さんは大きなため息をつく。 「今まで、いろんな相談に乗ってきたけど」 お茶を飲みながら、わざと僕たちから視線を外して言った。 「最近、重い相談が多くてね。ちょっと疲れちゃったわ」 僕のことを言っているんだと、少し責められている気分になる。 「私は誰にも相談できないのよ」 間を置いて、後藤さんが視線を向けたのは、僕ではなかった。 「ねぇ、清水君?」 清水さんの表情が曇る。 「ここで話すことじゃないでしょう」 「そう?最高のタイミングじゃない」 「やめて下さい」 二人が何を言っているのか、話が全く見えなかった。 けれど、明らかに清水さんが動揺しているのは、僕にでも分かった。 「まったく……」 僕の顔を見て、何処か可笑しそうに笑いながら、後藤さんは僕の頬へ手を伸ばす。 上半身がテーブルに乗り上げ、彼女の顔が近づいてくるのが見えた。 どうして、という不安が体を凍らせる。 「後藤さん……?」 隣で席を立つ気配がしたと思うと、不意に僕の頭は清水さんに抱えられる。 「冗談でも、怒りますよ?」 感情を抑えた声だった。 ふふっと笑う、後藤さんの声が聞こえる。 僕から、二人の表情は見えない。 「どういうつもりなんですか」 「だって、こうでもしないと、素直になりそうも無いんだもの」 洋菓子の小袋を開ける音がする。 「二人とも、ね」 僕は清水さんの腕から解放された。 後藤さんは満面の笑みを浮かべながら、抹茶味のフィナンシェを食べている。 「あなたたち、お互いのことを私に相談してきてたのよ?」 「……前から知ってたんですか?」 清水さんは、彼女とは真逆で、目を伏せて居心地の悪そうな表情をしていた。 「ううん、分かったのは、ついさっき」 真っ直ぐに僕の顔を見つめ、彼女は言う。 あの意地悪そうな笑みは、そう言う意味だったのか、と今更気付く。 「経過報告は、ちゃんとしてね」 そう笑う後藤さんに見送られながら、僕と清水さんはフロアを後にする。 1階に下りるエレベーターの中では、何処と無く気まずい雰囲気が流れていた。 エレベーターを降りると、清水さんが声をかけてくる。 「ちょっと一服していくから、付き合ってくれる?」 病院と言うこともあり、当然のことながら建物の中は禁煙で 喫煙所は、建物から遠く離れたプレハブの小屋の中に設置されていた。 清水さんは、小屋に置かれたパイプ椅子に腰掛けて、煙草に火をつける。 目を閉じて大きく煙を吸い込み、ふぅ、とため息のように煙を吐き出した。 清水さんの吐いた煙を目で追いながら、緊張を紛らわそうと考えていると 突然、手が掴まれ、その拍子に僕は彼の方へ顔を向ける。 彼は床を見つめて、何か、言葉を探している風だった。 僕の手を握ったまま、清水さんは煙草をもみ消し、立ち上がる。 片方の手が僕の頬にかかり、そのまま顔を軽く傾けて唇を重ねてきた。 煙草の香りが、鼻に届く。 薄く目を開けた彼は、眼鏡のレンズ越しに、僕の表情を伺っているようだった。 それほど長くないキスの後、彼は両手で僕の顔を包む。 「……好きだ」 声にならなかった。 彼は、不安そうに僕を見つめていた。 何か答えなきゃ、そんな気持ちが、ますます言葉を失わせる。 軽く震える手で、清水さんの腰に手を添える。 何かねだるような目をしていたのかも知れない。 彼は、あの微笑みを浮かべ、再び顔を近づけてくる。 長い、長いキスだった。 僕の中に、忘れられない感触が、また一つ残る。 それが、たまらなく幸せだった。 Copyright 2010 まべちがわ All Rights Reserved.