いつまでもアメリカン。http://foreveramerican.blog89.fc2.com/ --- 破壊(R18) --- -- 1 -- その男は、診察台のようなベッドに寝かされていた。 目隠しをされ、ボールギャグを噛まされ、両手は頭上で拘束されている。 身体中を複数の男にいたぶられ、赤いロウソクと、白い精液の痕跡が残る身体を激しく捩っていた。 「お兄さんも、一緒にどう?」 彼の傍らに立つ男は、俺に向かって話しかけて来る。 「すげぇドMなんだよ、こいつ」 たまに立ち寄るクルージングスペースでは、週に1回『SMナイト』と言うイベントが開催される。 そう言った趣味のある人間が集まり、思う存分楽しめる場所と空間。 器具や玩具なども貸し出すと言った、力の入れようだ。 潜在的な需要が多いのだろうと実感する。 乳首を洗濯バサミで挟まれると、首を振りながら呻き声を発する。 「何だ?これがいいんだろ?」 腹の辺りに六条ムチが飛び、痩せた上半身が浮く。 「ビンビンにしやがって、節操ねぇ奴だな」 電マで撫でられているモノの先端からは、液体が糸を引いていた。 自分自身、あまり興味の無い世界だと思っていたのに、その光景に目を奪われた。 昂りが、身体に変化を起こしてくる。 「イラマもOKらしいから、一発抜いて行きなよ」 男が近寄ってきて、俺の股間に手を伸ばす。 「興味無くても、そそられるっしょ?」 下品な笑みを浮かべる男に誘われるよう、俺は彼の傍らに立つ。 ギャグを外され、荒い息と喘ぎが漏れる。 「お兄さんが、しゃぶって欲しいってよ」 彼は何も言わず、唾液に塗れた口を、舌を突き出すように開ける。 「咥えたくって、しょうがないってか」 そんな嘲笑も、彼を興奮させるのだろうか。 眼前の状況に、自分の中のサディスティックな部分が、顔を出した。 「気持ち良く、してくれよ?」 俺は彼の頭を掴み、自分のモノを口の中に押し込んだ。 腰の動きに合わせて、苦しげな声が響く。 僅かな罪悪感が、快感にかき消されていった。 誰かの手で刺激がもたらされる度に、喉が閉まり、更に快感が増す。 最中、カツンと言う軽い音が鳴った。 「ローター吐き出しやがったぞ」 「ガバガバじゃねぇか。プラグでもしてやろうか?」 男たちはそう言いながら、抜け落ちたローターを乱暴に捻じ込み、アナルプラグで栓をする。 より強い刺激を受け、俺のモノを締め付ける力が一層増した。 限界が近いことを悟り、口の中からモノを抜き出す。 顔の前で自ら扱いていると、初めて彼が口を開いた。 「口の、中に……下さい」 この店では、口内射精はNG。 もっとも、ゴム無しの生フェラも禁じられているが、それは暗黙の了解になっている。 「どこまで変態なんだよ」 周りの男たちが笑う中、戸惑う俺に、声がかかる。 「良いんじゃね?本人が欲しいって言ってんだし」 背中を押されるように、再び口の中へモノを押し込み、腰を振る。 間をおかず、俺はイった。 中に精液が充満していく感覚を覚えながら、外に出す。 喉の動きで、彼がそれを飲み干したことを悟った。 口の端から僅かな精液を垂らしながら、彼は言った。 「……ありがとう、ござい、ました」 俺が離れると同時に、他の男が入れ替わるように、彼の口にモノをぶち込む。 「おら、休んでる暇なんかねぇぞ?」 苦悶と快楽の喘ぎが、空間に響いた。 彼は、一体何処まで行くんだろう。 幻のような光景を見下ろしながら、俺は床に置かれた電マを手に取る。 スイッチを入れ、乳首を嬲る洗濯バサミに近づけると、悲鳴のような声が上がった。 自分の犯す咎が、彼に快楽となって降り掛かっている。 その事実が、今まで感じたことの無い興奮を呼んだ。 それから彼が何人のモノを咥えたのかは、よく分からなかったが 俺は見も知らない男たちと、陵辱の時間を楽しんだ。 「最後は、自分でシコってイけよ」 そんな男の声で、彼の両手はようやく拘束から解かれる。 「ドMの公開オナニーショーだな」 性欲を処理し終わった男たちの声を浴びながら、力なく自らのモノを扱き、果てる。 目隠しをしたまま、彼は再び感謝の言葉を発した。 台の上でぐったりする彼を残し、男たちは方々へ去って行く。 急に現実に引き戻されたような気がして、罪悪感がぶり返した。 -- 2 -- 「……大丈夫?」 こんな言葉を掛けるべきなのかどうかも、分からなかった。 彼は何も言わずに自らの視界を奪っていた物を外す。 真っ赤に潤んだ目が、凄まじい刺激と興奮を物語っていた。 「あなたは……こう言うのは、初めてですか?」 そう言いながら、彼は身体を弄んでいた器具を外していく。 その度に、顔を歪め、小さな呻き声を出す。 脳内麻薬が切れたせいなのか、妙に痛々しくて見てられなかった。 「……そうじゃなきゃ、そんな風に、声かけたりしませんよね」 細めた目で俺を見る彼の言葉の意味が、理解できなかった。 「虐待して楽しむ人たちは、その優越感も快感の一つですから」 身体を引きずるように台から降り、側にかけてあったバスタオルを腰に巻く。 「行為の後に、声をかけるようなことはしないんですよ」 彼は、口角を軽く上げ、冷めた笑いを投げかけてくる。 「そう……俺には、まだ……」 「興味、持ちました?」 何処か楽しそうに聞いてくる彼に、俺は困惑しながら答える。 「……どうかな」 「月一くらいで来てるんで……機会があったら、あなたも」 彼は俺から視線を外し、床に散らばった物を片付け始めた。 ぎこちなく動く身体をしばらく眺めていると、不意に彼が振り返る。 上目遣いで俺を見る目が、快楽に囚われている様に、妖しく見えた。 何かに、突き動かされた。 彼の腰に手を回して抱き寄せる。 未だ熱を帯びた細身の身体が、腕の中に納まった。 「……あなたの奥にある欲望を、オレにぶつけてくれますか?」 彼はそう言って、俺を見つめる。 俺の欲望。 罪悪感と背徳感に覆われたものを、彼は剥き出そうとしている。 緊張で、背筋が寒くなるのを感じた。 この店のシャワーブースは、完全個室になっている。 中で楽しみたいと言う需要もあるんだろう。 男二人で入るには若干狭いが、それが好都合と言う見方もある。 壁に手をつく様に立たせ、彼の背後に立つ。 水が流れ落ちていく身体をまさぐりながら、肩から下へ手を滑らせる。 さっきまで厳しい責めに耐えていた乳首は、既に堅くなり始めていた。 「ここ、相当好きそうだよね」 両方を摘み上げると、彼は切ない声を上げる。 「どうなんだよ?」 「いい、です……強く捻って……」 躊躇いを振り払うように、その指に力を込める。 喉の奥から搾り出すような声が響いた。 「痛いのが……良い訳?」 「……っは、い……」 「ほんとに、変態だな」 「もっと、なじって……下さい」 シャワーの湯で濡れた頭を軽く振りながら、彼はそう求める。 欲望を覆うものが、徐々に捲られて行く様な感覚に陥った。 あれだけの陵辱を受けた後でも、彼の身体は性欲に従順だった。 ブースの隅に置かれた使いかけのローションを、背中に垂らしていく。 シャワーで温まった身体と相反する感触に、彼は小さく反応した。 塗り広げるように、前へ手を伸ばす。 「もう、硬くしてんのか」 「はい……」 「便利だよな、乳首だけでこんなに興奮できるんだから」 滑りの良くなったモノの先端を軽く摘むと、背中を強張らせ、深い息を吐く。 手を動かす度に、卑しい音が鳴った。 片方の手を尻の割れ目に沿って挿し込んで行くと、やがて穴を捉える。 「こんなにヒクヒクさせて……どうして欲しいんだ?」 「指で……掻き回して、下さい」 モノへの刺激に耐えるように俯く彼は、声を出す。 中指を一本入れる。 生暖かい肉の壁が、指にまとわりついた。 その感覚が妙にリアルで、気分が昂揚する。 根元まで押し込んでやると、彼の身体は僅かに反り返る。 「一本じゃ、物足りないか?」 彼の反応を待たず、人差し指を捻じ込む。 締め付けは、より、きつくなる。 ローションの滑りに任せて出し入れすると、快楽の虜になった彼の声が大きくなった。 「良いんだろ?」 「……あぁ……は……い」 挿し込んだまま、指の先を上下に動かしてやると、震える吐息をつく。 彼の欲望が、俺の欲望を、晒していく。 -- 3 -- こう言った場に足を踏み入れることが出来るようになったのは、つい最近のことだ。 社会人になる前。 金が無かったこともあって、屋外のハッテン場に出入りしていたことがある。 しばらく経って、そこで強姦まがいのプレイを強要された。 数人の男に押さえつけられたまま、ローションも無しにケツに無理矢理捻じ込まれ 塞がれた口から漏れる悲鳴を聞きながら、奴らは愉快そうに笑い声を上げていた。 何日経っても、身体中の酷い痛みと、吐き気は消えず 不全気味になった自分のモノを、自らで慰めることも無くなっていった。 就職して何年か経ち、悪夢のような出来事も徐々に薄れてきた頃。 恐怖の替わりに芽生えてきたのは、身体の疼きだった。 店の前で怖気づき、引き返したことも何度もあったけれど 一度足を踏み入れてからは、昔のように欲を素直に受け容れられるようになった。 けれど、未だに、心の傷が奥深くで燻っている。 アナルセックスへの拒否感も拭えないままだ。 だからこそ、どこまでも欲望に忠実で、どんなプレイでも柔軟に許容できる彼が ある意味、羨ましく思えた。 根元まで飲み込まれた指を引き抜くと、彼は小さく喘ぐ。 ローションともガマン汁ともつかない液体に覆われたモノは反り立ち 刺激の余韻に、微かに身体を震わせている。 肩を掴み、こちらを向かせる。 紅潮した顔が、目の前にあった。 「口、開けろ」 唇に舌を這わせ、そのまま口の中に挿し込む。 ゆっくりと、彼の舌が俺の舌に絡んできた。 幾度と無い口の中への射精の余韻が、若干感じられるような気がする。 それを打ち消すように、舐りまわす。 互いの口の周りが唾液に塗れ、息苦しくなる頃、顔を離して彼を跪かせた。 「しゃぶれよ」 壁にもたれ掛かる俺の腰を柔らかく撫でた後、些か硬くなったモノを、彼は口に含む。 先端を唇で挟まれると、背筋を刺激が突き抜けた。 「こっち、向け」 そう言って、彼の視線を俺に向けさせる。 少し前のイラマチオよりも大きな快感が、身体を、心を捕らえた。 卑猥な水音と、荒い息遣いだけが、ブースを包む。 足で彼のモノを撫でてやると、くぐもった声を出し、身体を強張らせる。 喉の奥の締め付けが、きつくなった。 「こんなに、ベトベトに、しやがって」 指がつりそうになりながら、先端を挟み込む。 見上げる顔が、切なげに歪んだ。 俺の中に潜む欲望の質が、徐々に変わって行く。 刺激に打ち震えながら、そんな思いに駆られた。 彼の口の中から、強引にモノを抜き出す。 物欲しげな目で、彼は俺を見た。 「もう一回、自分でやってるとこ、見せろよ」 若干怯んだ顔に、自分の顔を近づける。 「お前の恥ずかしい姿で、抜いてやる」 一瞬の間が空き、彼は答えた。 「はい……オレの恥ずかしいオナニー、見て下さい……」 跪いたまま、自らのモノに手を伸ばし、緩やかに扱き出す。 淫らな声が、聴覚から俺のモノへと手を伸ばして来た。 残り少なくなったローションを、前屈みになった背中に垂らしていく。 「ケツも好きなんだろ?」 「……好き、です」 腰から尻の割れ目に沿って流れていく液体を、彼は後手で塗りこめる。 静かに息を吐き、その指をアナルに沈めて行く。 指を動かす音が、ダイレクトに聞こえて来た。 「もっと、音立てろよ」 「は・・あ……」 まともに返事を出来ないほどに、彼の身体は快楽に蝕まれているようだった。 水音が激しくなり、その表情からも、素直な反応が見て取れた。 「指、何本入ってるんだ?」 「……1本……で、す」 「まだ入るだろ?」 唇を噛み、眉間に皺を寄せながら、軽く腰を浮かせて2本目を挿入していく。 「……も、う……」 モノを扱く手が止まる。 指を挿し込んだまま身体を硬直させ、絶頂を堪えているのが分かった。 足の平で、彼のモノの先端を撫で回す。 「いっ……」 「手が、止まってるぞ?」 自然と、自分のモノへ手が伸びる。 足元で蠢く彼の姿を見ているだけで、いきりたった。 「俺が、イくまで、イくなよ?」 男を虐待することで得られる快感が、俺を絶頂に導いていく。 自らがもたらす刺激に耐える彼の顔を上げさせる。 半開きになった口に指を押し込み、強引に口を開けた。 「しっかり、飲め」 そう言って、歪む彼の顔にめがけて、射精する。 眼下の彼は、顔にまとわりつく液体の感触に飲まれる様に、間をおかずイった。 意識が飛びそうになるくらいの、脱力感を覚えていた。 床に手をついて、身体を痙攣させている彼の腕を引き、立たせる。 虚ろな目をした、その表情が堪らなかった。 自分にもたれ掛からせるように、抱きしめる。 「……ありがとう、ございました」 彼は、消え入りそうな声で呟いた。 -- 4 -- 初めて味わった、加虐の悦び。 そして、他人を服従させると言う支配感に、憧れのような想いを抱き始める。 名前も知らない行きずりの男に、俺は、変えられて行っているのかも知れない。 シャワーから降り注ぐ湯が、行為の跡を消し去っていく。 後ろから彼の腰に手を回す。 振り向いたその表情は、穏やかだった。 濡れた髪が顔に触れ、そのまま唇を重ねる。 柔らかい感触が、言葉を促した。 「今、付き合ってる奴、いるの?」 一瞬驚いた表情を見せ、彼は言った。 「いえ、特には」 「こうやって、知らない奴相手にしてる方が、良い?」 「そう言う訳じゃ、ないですけど」 彼の指が、俺の頬を撫でる。 「怖くて」 「何が?」 「背中を向けられるのが……」 自分がゲイであると確信した時から、俺は人との距離を取る様になった。 受け容れてもらえない苦しさ、続かない蜜月の関係。 長年そうやって過ごす内に、自分自身、何処かで諦めてしまったのかも知れない。 誰かを求めると言う行為を。 いざ、機会が訪れたとしても、容易に向き合えるかと言われれば、どうだろう。 きっと、目の前の彼も、同じ思いだったに違いない。 「じゃあさ」 頬を撫でる手に、自分の手を添える。 「背中を向けられないくらい、目を逸らせなくなるくらい、俺を嵌めてよ」 彼は、俺を見たまま唇を震わせる。 言葉を選んでいるのだろうか。 しばらくの間が空いて、彼は口を開く。 「……分かりました」 彼は、マサヤと名乗った。 俺は、ナカジマ、と咄嗟に偽名を口に出す。 後ろめたい部分があったのも確かだけれども 携帯の番号さえ分かっていれば、名前が何であれ、関係を続けて行くことは出来る。 そんな風に、軽く考えていた。 SMの経験だけで言えば、彼は俺よりもずっと上を行っている。 プレイ可能なホテル、様々な道具、そして自分の身体の限界。 どの知識も持っていない俺は、彼に教えを乞う事も多かった。 その中でも、行為中の彼は、決して主従関係を崩すようなことはせず ただひたすら、俺の意のままに、快楽に身を預けていた。 そのホテルの部屋は、磔台と大きな鏡があることが売りだと言う事だった。 シャワーを浴び、一通りの準備をした後、彼は俺に向かって言う。 「お願いします」 それは、彼と俺との間にある約束。 プレイの最初と最後には、必ず挨拶をすること。 お願いします、で始まり、ありがとうございました、で終わる。 この間、彼は俺に服従する時間を過ごすことになる。 挨拶をするタイミングは、彼の一存。 その一言で、俺はスイッチを切り替える。 手と足、腰の部分に枷がついたXの形をした台に、彼を拘束する。 期待と不安が入り混じった目が、俺を見ていた。 プレイを楽しむ際、彼は様々な道具を持ってくる。 俺が興味を持った物も含まれるようになっては来たが、概ね、彼の嗜好によって選ばれている。 ただ、それをどう使うかは、俺の自由だ。 まだ柔らかい状態のモノに、金属製の貞操帯を取り付ける。 南京錠が閉まる、カチリと言う小さな音で、彼の顔が小さく歪む。 「我慢しろって言っても、無駄だろうけどな」 そう笑いかけると、彼は唇を噛んだ。 乳首には、クリップを着ける。 銀で出来た小さな鈴がついていて、彼が身を捩る度に、この空間に似つかわしく無い音を立てた。 それだけで、鏡に映る自分の姿を見る彼の身体は、紅潮していく。 ローションを手に取り、腰から尻へ塗り広げる。 アナルをほぐすように指で撫でていると、大きな吐息をついた。 「力、抜けよ」 小さめのローターを押し込むと、彼の腹筋が陰影を表す。 「これじゃ、物足りないだろ?」 「……はい」 素直な欲望に応じるよう、もう一つローターを入れ、プラグで栓をする。 スイッチを入れるまでも無く、彼の吐く息に声が混じった。 「言うことは?」 尻から伸びる2本のコードとリモコンを、腰に巻かれた枷に押し込む。 「ローターの、スイッチ……入れて下さい」 望みどおり電源を入れてやると、彼の上半身は大きく仰け反り、鈴が甲高い音を立てる。 ローター同士がぶつかる音が、喘ぎ声に混じって聞こえてきた。 「ケツの中は、どうだ?」 「は、あ……気持ち、良い、です」 リモコンの強度を徐々に上げると、喘ぎは乾いた悲鳴のような声に変わる。 刺激に耐える彼の顔が、欲情を駆り立てた。 鏡の方を向かせるよう、彼の顎を掴み、耳元で囁く。 「恥ずかしい顔、しやがって」 その目は、更なる加虐を望んでいた。 -- 5 -- 金属の檻に囲われたモノが、徐々に大きくなっているのが分かる。 半開きになった口からは荒い息遣いが発せられている。 鎖骨の辺りからローションを垂らしてやると、その冷たい感触に身体が強張った。 胸から腹にかけて、ゆっくりと塗り広げていく。 熱くなった身体から激しい鼓動が感じられた。 充血した乳首を挟んでいるクリップを引っ張ると、彼は堪らず声を上げる。 「もっと、キツい物の方が、良さそうだな」 彼は無言のまま、視線で答を俺に返す。 俺は、そのままクリップを強引に引き外した。 喉の奥から出る悲鳴が、俺の加虐心を煽って行く。 木製の洗濯バサミで乳首の周りを撫でてやると、物欲しそうな表情が鏡に映った。 焦らすように弄んでいる内、耐え切れなくなった彼は口を開く。 「……挟んで、下さい」 「何処を?」 「……乳首を、洗濯バサミで、挟んで……下さい」 わざと嘲笑を浴びせ、彼の乳首を洗濯バサミで挟む。 それを指で弾くと、彼は頭を振り、痛みと快感に打ち震える。 「嫌なのか?違うんだろ?」 「う……あ……」 「言えよ」 「……い……い、で、す」 「変態が」 彼の口から垂れる唾液を指ですくい、口の中に捻じ込む。 「もっと、やらしい顔、見せろよ」 小型の電マを、無防備な脇に当てる。 反動で腕が跳ね、手枷の鎖が引っ張られる金属音が鳴る。 脇腹を経て、下半身を撫でて行き、膨張したモノを抑制している貞操帯へ当てる。 懇願するような喘ぎが、部屋に響いた。 「もう、パンパンになってるぞ?」 「いっ……あ……」 「外して欲しいのか?」 「はっ……い」 「俺より先に、イかせる訳、ねぇだろ?」 潤んだ目が、切ない表情をより強調する。 俺の下半身に視線を移し、彼は、声にならない声で願いを乞う。 「あなたの、チンポ……しゃぶらせて、下さい」 彼は、俺がアナルセックスを強要しないことを、どう思っているんだろう。 ふと、考えることがある。 自分のトラウマを彼に話したことは無い。 ローターやディルドを突っ込まれるより、男のモノの方が良いんじゃないか。 若干卑屈になることもありつつ、結局はいつもオーラルセックスで終わる。 俺が満足していても、彼の中には不満があるんじゃ無いか、そんな不安があった。 彼が望んでこないことを一縷の望みにしながら、俺はモノを咥えさせる。 「奥まで咥えろよ」 磔台の拘束から解かれた彼は、椅子に座った俺のモノを口に含む。 アナルから伸びるローターのリモコンで、その振動の強弱を操作すると 喉の締め付けが、一層激しくなる。 「顔、上げろ」 上目遣いで、俺のモノの先端に舌を這わす姿を見て、首筋まで刺激が走る。 欲情が、怒張となって現れていた。 玉の方から舐め上げられると、先端からは卑猥な液体が糸を引くのが見える。 限界が近かった。 彼の口が立てる水音に飲まれるに連れ、身体の震えが大きくなる。 「ちゃん、と、飲めよ」 俺の言葉で、彼は視線を上げる。 その瞬間、俺はイった。 口の中に精液が充満し、それが徐々に無くなっていく。 彼は俺が放出したものを全て吸収するように、柔らかくなったモノを、しばらく舐る。 泡だった白い液体を口の端につけたまま、彼は再び懇願の視線を向けた。 檻に囲われたモノは、痛々しいくらいに腫れ上がっていた。 アナルからプラグとローターを抜き取り、貞操帯を外す。 彼は震える手で細めのディルドを持ち、自ら舐め始めた。 やがて、妖しく光るその物体を、ゆっくりと自分のアナルに沈めていく。 大きな息を吐き、彼は俺を見て言った。 「オレの、いやらしい姿……見て、下さい」 後手でディルドを出し入れしながら、自分のモノを扱く彼に、一つ注文をつける。 「折角だから、鏡に向かってやれよ」 俺に身体を向けていた彼は、後方の鏡の方へ向き直る。 鏡に映る、欲望の固まりになった自分の姿から、一瞬目を逸らす。 そんな膝立ちの彼の後ろに屈み、頭を掴んで正面を向かせた。 「恥ずかしい格好だな」 未だ乳首を刺激している洗濯バサミを指で叩く。 「う……あ」 「ガマン汁、床にまで垂らしやがって」 「……もっ、と」 「何だ?」 「もっと……酷いこと、言って……下さい」 鏡の向こうの彼は、そう切望する。 解消された性欲が再び湧き上がる感覚を抑えながら、俺は彼の身体に手を伸ばす。 -- 6 -- 底無しのその性欲に、不意に脅威を感じることもある。 俺が受け止めきれる存在なんだろうか、そう怖くなることもあった。 それでも、彼の全てを、俺は欲していた。 彼のモノの先端に軽く爪を立て、引っ掻くように動かす。 「いっ……」 「何て言えば良いか、分かってるだろ?」 「……もっと……して、下さい」 「ホント、淫乱だな」 染み出る液体が糸を引く様を見せつけるように撫でまわし、その指を彼の口へ持って行く。 「ほら、舐めろよ」 彼は舌を出し、俺の指を舐める。 「どうだ?自分のガマン汁の味は」 「美味しい、です」 絶頂が近いのか、モノを扱く手が激しくなるにつれ、ディルドの方は緩慢になって行く。 「手伝ってやろうか?」 彼の手の上からディルドを掴み、捻るように出し入れを繰り返す。 やがて、激しい喘ぎを上げながら、背中が大きく反り返る。 白濁した液が床に飛び散り、彼の身体は崩れ落ちて行った。 呼吸を乱しながら、声を出す。 「あり、がとう……ございました」 そして、俺と彼との主従関係は、終わる。 「いつも思うんだけど」 湯気の篭った浴室で、彼に話しかけた。 「……何ですか?」 「次の日、身体大丈夫なの?」 心配げな俺の顔を見て、彼は声をあげて笑う。 「痛いですよ、身体中」 当然のようにそう言って、目を細めて微笑んだ。 「でも……それも、オレには堪らない」 心が締め付けられるような思いがした。 引き寄せて、唇を重ねる。 目を閉じて満足そうな表情を浮かべる彼に、俺はのめり込んで行く。 彼とのプレイは、2週間に一度。 それは、自分の限界を知る彼が決めたことだ。 もちろん体調を考慮して、互いの身体を慰め合うだけの時や ただ二人で時間を過ごすだけの時もある。 恋愛関係なのか、欲情的なだけの関係なのか、おぼろげな部分もあるけれど 俺が求めていたのは、前者だったのかも知れない。 「楠木、今日の打合せ何時だっけ?」 上司である和田さんが、そう声をかけてくる。 「15時ですから、直に出ないとマズイですね」 今日の打合せは、親会社が手がけている建物修繕の調査について。 既存のビルに設置されている各種機器の状況を調べて メンテナンスや交換が必要かどうかを検討する、コンサルティング業務だ。 直接担当するのは俺だけれど、初顔合わせと言うことで、和田さんが同行する。 打合せ室に入った瞬間からのことを、俺はあまり覚えていない。 俺たちを出迎えたのは、親会社の担当者とその上司。 永岡雅哉、そう書かれた名刺を差し出した担当者の顔を、まともに見られなかった。 そこにいたのは、紛れもなく彼だった。 細い黒縁のフレームの眼鏡をかけ、いかにも高価そうなスーツを着た男は 大企業のサラリーマン風情を漂わせていて、俺の足元に跪く男とは、全くの別人に見える。 自分の名刺を差し出す際になって、偽名を使っていたことを後悔した。 彼は、俺の名前を見て軽く目を細め、直後、何でもなかったように表情を戻す。 ただただ、居た堪れない時間が、実にゆっくりと流れていった。 帰り際、完全に動揺してしまった俺に、和田さんは苦言を呈す。 「……お前、やる気あんの?」 「え……はい、大丈夫です」 「打合せ、上の空だったじゃねぇか」 「すみません……」 ちょっと一服、そう言って、彼は交差点に設けられた喫煙所に入って行く。 「お前がやりたいかどうかなんて、関係ねぇんだよ」 「分かってます」 「これで飯食ってんだろ?」 「はい……」 「ったく、しっかりしてくれよ。期待してんだから」 やりたくない、と言うのが素直な心情だった。 公私混同なのは重々承知していても、それがどんなに甘っちょろい考えだと分かっていても この仕事にも、彼にも、同時に向き合っていく度胸が、俺には無かった。 主従が逆転した俺たちの関係。 そのスイッチを、切り替えることが出来なかった。 -- 7 -- 結果、俺は彼に背を向けた。 向けざるを得なかった、そう言い訳することも出来たかも知れないが 弱さが露呈するのが嫌で、自らの心の中に仕舞い込んだままにした。 彼との業務連絡は、殆どをメールでこなした。 たまに電話をしていて、彼のもう一つの姿が目に浮かぶこともあったけれど あくまでビジネスライクに、それを徹底するよう、自分に言い聞かせた。 彼から来るプライベートな電話やメールは、全て無視した。 それでも、社内の電話で聞く彼の声には何の動揺も無く まるで初めから仕事上の付き合いだけ、そんな雰囲気を思わせた。 あれから1ヶ月ほど経ち、調査は中盤を迎える。 実際に対象となるビルの検査を行いながら、修繕計画を組み立てる段になり 俺は再び、親会社の社員である、彼を目の前にする。 この物件を担当するようになってから、仕事でも、プライベートでも、彼に会うことは無かった。 初顔合わせの印象と変わらない男は、精神的な疼きに必死に耐える俺とは、対照的だった。 「わざわざご足労頂いて、すみません」 「いえ、実際見てみないと、分かりませんから」 「12階に空きテナントがあるので、そこから見て行きましょうか」 そう言って、作業服を羽織り、脚立を肩に担いだ彼は、エレベーターに乗り込む。 密室に充満する無言の空気に、心が蝕まれる思いだった。 現況図面だけでは分からない機器について調査するのが、今日の目的だ。 ガランとした空きオフィス西側一面に張られた窓からは、汐留の風景が一望できる。 俺は天井を見上げながら、該当する位置を探す。 「この辺ですかね」 そう言うと、彼は脚立を置き、組み立てる。 俺は脚立に上がり、天井の点検口を開けて中を覗き込んだ。 空調機や熱交換器、それに付随する配管やダクトが、所狭しと設置されている。 「……あれかな」 工事概要にはあったのに、図面には無かった機器が、目に入る。 「加湿器ですか?」 「そうみたいです。割と新しそうですよ」 「何台入ってるんだ?これ」 「一応、他も見てみましょうか」 脚立を降りた俺の肩を、彼は軽く叩く。 「スーツじゃ、汚れちゃいますよ」 「ああ、大丈夫ですよ。お気になさらず」 それだけの行為でも、感情が揺さぶられる。 俺はそれを振り切るよう、脚立を担いで、次の点検口に向かう。 「現況図とは、随分違いますね」 「まぁ、良くあることとは言え、困ったもんです」 調査を取り仕切る彼は、そう呆れた様に呟く。 「……そうだ、エアハンも見て行きます?」 「機械室、開いてるんですか?」 「ええ、鍵を開けておくように、言ってあるので」 部屋の隅にある空調機械室の中には、中型のエアハンドリングユニットが収まっている。 薄暗い空間は、独特のかび臭さはあったけれど、随分綺麗にされている。 奥にある機械の銘板を見ようと足を進めると、背後でドアの閉まる音がした。 振り返ると、無表情の彼がドアの傍に立っている。 「……どうしました?」 不穏な雰囲気に、声が僅かに震えた。 近づいてくる彼を前にして、俺は後退る。 程なく足元に配管が当たり、すぐ背後はコンクリートの壁になった。 冷静な表情の顔が近づいて来て、その手が俺の頬を撫でる。 「な、永岡さん?」 この期に及んで彼の名前を口走らなかったのは、まだ俺に理性があったからなのか。 けれど、そんな脆い理性も、彼の唇で打ち砕かれる。 腰に手を回され、彼との密着感が増す。 唇の間から舌が入ってきて、吐息が漏れた。 眉間の辺りに軽く当たる眼鏡のフレームの感触が、やがて薄れて行く。 その表情は、切実なものに変わっていた。 「目を……逸らさないで」 抑えていた衝動が、薄い殻を突き抜ける。 俺は、目の前の男を、抱きしめた。 様々な言い訳が頭を巡った。 それを制するよう、彼は口を開く。 「もう、抑えられない……」 耳元で、甘い声が響いた。 「壊れるくらい、愛して……下さい」 腕の中にいたのは、俺が知っている彼。 俺の背中に回された腕は、二度と俺が背を向けないよう、絡み付いていた。 俺は、彼を心から信用していなかったのかも知れない。 弱い自分を見せることで、彼が去って行く、それが怖かった。 抱える不安を話すと、そんな訳が無い、と否定する。 「オレは、身も心も、あなたに拘束されてますから」 そう言って、悪戯っぽく微笑んだ。 「お願い、します」 挨拶を済ませる彼の身体に手を伸ばし、愛おしみながら壊していく。 綻びそうになる鎖を少しずつ修復しながら、俺たちはつかの間の主従関係を楽しむ。 彼に剥かれた欲望が、愛になる。 嬌声を上げる、その顔を見て、俺は幸せを実感した。 Copyright 2011 まべちがわ All Rights Reserved.