いつまでもアメリカン。http://foreveramerican.blog89.fc2.com/ --- 昇華 --- -- 1 -- 京葉道路の宮野木JCTを過ぎると、車の量は大分減った。 途中の幕張PAで買ったチョコレートを口に放り込みながら、目の前に広がる空を見やる。 まさに、晴天。 絶好のドライブ日和だ。 蘇我ICに入る頃、道路の名前は京葉道路から館山道へと変わる。 海の気配を僅かに感じながら、車は更に南を目指す。 ドライブのお供は、車についたナビだけ。 『目的地まで、およそ25km、です』 「おうよ、ガンガン行くぜ」 ラジオから聞こえてくる流行の洋楽。 正直、そう言ったものには疎いから、CMで聞いたことあるかな、くらいの感覚だ。 毎日、朝から晩まで仕事をして、CDを買ったり、音楽をダウンロードしたりもしない。 当然と言えば、当然なのかも知れない。 こうやって歳を取っていくんだろう、と思うと、可笑しくなって来る。 *********************************** 「奥田、朝だぞ」 大学の研究室に置かれたソファで仮眠を取っていた俺は、そんな声で起こされる。 「あぁ……何時?」 「8時半」 そう言って自席についたのは、同じ研究室に所属する久米だ。 「早ぇな」 確か、昨日あいつが自宅に帰ったのは夜中の3時過ぎ。 俺が堪らずここに横になったのは、それから30分くらい経ってからだったと思う。 「お前がやった実験結果、早めに解析しようと思ってね」 「そう言われたら……俺も起きなきゃなんねぇじゃん」 「だから、起こしただろ?」 久米とは学部生の頃からの友達だ。 縁あって同じ研究室に入り、そのまま修士課程まで進んできた。 今は、共同研究という名目で、構造物に対する風応力の影響に関する修士論文をまとめている。 俺が模型を作って実験をし、あいつがその結果の解析を行う。 お互いの得意分野を活かせるから、そのメリットは大きかった。 「おい、実験室の電気点けっぱだぞ!」 「やべ……」 廊下から聞こえる怒鳴り声の主は、研究室の菊地先生。 豪快な言動とは裏腹に几帳面な性格で、ちょっと室内を乱雑にしようものなら 即座に怒声が飛んでくる。 けれど、俺たちに年齢が近いせいか、親身になって相談に乗ってくれることも多く 学生の信頼は大きかった。 「すみません、すぐ消します!」 「もう、消したよ!」 そう言いながら、先生は研究室のドアから中を覗き込む。 「お前、そんなんじゃ、実験の内容も突っ込まれんぞ?」 「はぁ……」 「久米の几帳面さ、少し分けて貰ったらどうだ?」 彼はそう笑いながら、自室へ向かって行った。 「幾らでも、分けてやるけど?」 PCの前でやり取りを見ていた久米が、悪戯っぽく言う。 「俺は、自分の性格は嫌いじゃねぇの」 「ずぼらなのも?」 「そ」 「ま、オレもお前の性格は今のままで良いと思うよ」 「何それ?」 「フォローのしがいがあるじゃん」 そんな得意顔の友を見て、悔しいような、嬉しいような気分になる。 確かにあいつに助けられた部分は多々あって、それは逆もしかりだった。 日常の、何でもない出来事で、俺は度々実感した。 こいつと友達で、良かった、と。 *********************************** 富津金谷ICの出口を示す標識が見えてくる。 高速を降りて一般道へ入り、道なりに車を進めると、やがて目の前には海が広がる。 大きくカーブを取った道を下り、更に南下すると、目的地の金谷港に到着した。 フェリーは既に着岸していて、乗り込んでいく車の列が見えた。 急いで乗船券を買って、その列に混ざる。 車のままで船に乗り込むと言うのは初めてで、若干緊張しつつ誘導通りに車を進め、停車させる。 造船所のような無骨な車両甲板の中を眺めながら、俺はデッキへ上がった。 -- 2 -- 土曜日の行楽日和ということもあり、フェリーのラウンジには既に先客が多く座っていた。 俺は窓際の小さな席に座り、売店で買ったコーヒーをすする。 空の機嫌とは裏腹に、水面には白波が立っていた。 とは言え、東京湾内。 船は大きく揺れることも無く、房総半島を後にする。 ここから約40分で久里浜港に到着だ。 人生で船に乗った機会は、何度あるだろう。 ふと、そんなことを考えてみる。 俺が生まれ育ったのは山形の尾花沢と言う町。 東北じゃ有名なスイカの名産地で、海からは遠い場所だ。 小学校か中学校の修学旅行で、隣県の松島に行って そこで遊覧船に乗った時以来かも知れない。 大学は千葉にあったけれど、学生時代の思い出に船の記憶は無い。 だからだろうか、こうやって長時間海を眺めていても、飽きて来ないのは。 コーヒーも無くなり、折角だからとデッキに出てみた。 誰かが餌をやっているのか、船尾の方に多くのカモメが群がっているのが見えた。 柵の向こうの海面は想像以上の速さで流れている。 風に当たる潮風が心地良かった。 やがて360度青かった視界に、僅かな陸影が見えてくる。 *********************************** 「お前、配属先、決まったの?」 「ああ、江戸川区の研究所」 「何だ、近いじゃん」 修士論文の提出も終わり、後は修了式を残すだけとなった最後の春休み。 俺はゼネコンの研究職として、来月から研修に入る予定になっていた。 久米は博士課程に進むことになっていて、春からもここに居残りとなる。 研究室に所属していた殆どの学生は荷物を引き払い、室内はガランとしていた。 久米がバルコニーの方へ歩き出す。 「お前、禁煙したんじゃなかった?」 「そんなこと、言ったっけ?」 穏やかで几帳面、真面目が取り柄と言った性格のあいつは、極度のヘビースモーカー。 いつも禁煙すると言っては、それが1日と続いたことは無かった。 それだけがお前の欠点だ、と嫌煙家の菊地先生にも言われている。 バルコニーから見える学校の風景も、これが最後だろうか。 そう思うと、急に感傷的になって来る。 「たまには、顔出せよ」 ぼんやりと景色を眺める俺を見て、久米が呟く。 「ああ、落ち着いたら遊びに来る」 煙草の煙が流れ、空に消えていった。 「……寂しくなるなぁ」 久米がパイプ椅子にもたれると、古い椅子は軋む音を上げる。 「しょうがねぇよ、学生生活なんて、いつか終わるんだから」 「まぁな」 バルコニーの柵に足をかけ、あいつは軽い溜め息をつく。 「オレとお前も、終わんのかな」 「は?何?友達止めようってか?」 「これからは、社会人と学生だろ」 「だから何だよ?」 「それって、でかいんじゃないのかなってね」 「関係ねぇだろ、そんなの」 久米が抱く不安は、分からないでも無かった。 実際、学部の時に就職した友達とは、疎遠になっている奴も多い。 やっぱり学生と社会人は住む世界が違うんだ、そう思わずにいられなかった。 「携帯だって、メールだってあんじゃん」 「そうだけど」 外を見つめる久米の顔は、何処か切なげだった。 「どうしたんだよ?俺に会えなくなるのが、そんなに寂しい訳?」 冗談半分でそんな軽口を叩くと、あいつの顔は更に深刻になり その雰囲気に、俺は言い様の無い違和感を感じる。 俺の問いには答えが無いまま、時間だけが過ぎていった。 *********************************** 大きな船体が久里浜港に着岸する。 もっとも、既に車に乗り込んだ俺は、それを車両甲板に響く振動音で悟った。 ハッチが開き、なだらかな丘が続く久里浜の風景が見える。 前の車に続くよう、俺は車を発進させた。 美しい港町を抜け、車は横横道の佐原ICから再び高速道路に入る。 時計を見ると、時刻はもうすぐ12時。 腹も減ってきたな、と言うタイミングで横須賀PAの標識が見えて来た。 あと3km。 昼飯は何にしようか、そんなことを考ると、ハンドルを握る手に力が入った。 -- 3 -- 横須賀PAの駐車場は、昼時にも関わらず、思ったほど混んではいなかった。 横横道に入ってすぐだからだろうか。 売店近くのエリアに車を停めて、レストランに足を向ける。 ガラス張りのレストランのカウンターでメニューに悩む。 よこすか海軍カレーと、三崎のまぐろ漬け丼。 結局、まぐろ丼と海軍カレーパンを求め、テーブルに着いた。 外のテーブル席には、若者の一行。 大学生だろうか。 楽しげな雰囲気に、つい羨ましさを感じる。 俺も、あんな時期を過ごしてきたはずなのに。 *********************************** 明後日から研修と言う日の夕方。 俺は残っている荷物を取りに、研究室へ赴いた。 部屋には誰もおらず、俺の気配に気がついた菊地先生が自室から顔を覗かせた。 「おう、今日でおさらばか」 「ええ、そうですね。お世話になりました」 「ホント、相当世話してやったな。恩を忘れんなよ?」 「忘れませんよ」 就職した先じゃ、こんな風に会話することも出来ないんだろう。 そう思うと、社会人になった自分がどんな生活を送るのか、少し不安になって来る。 「そう言えば、久米は来てませんか?」 「あれ?さっきまでいたぞ?」 「コンビニでも行ったかな……」 電話を入れてみるが、すぐに留守電になってしまう。 その後に予定があったこともあり、俺は仕方なく研究室を後にする。 荷物を抱えた俺と、コンビニ袋を提げた久米とが鉢合わせしたのは 1Fのエレベーターホールだった。 「何だ、来てたのか」 エレベーターの中の俺を認めた久米は、疲れた笑顔を見せた。 「ああ……って、随分疲れた顔してんな」 「早速、学会の準備なんだよ」 「俺より先に、新生活スタートか」 「お前も、すぐだろ?」 「明後日から。長野で研修だってさ」 俺たちは、エレベーターホールの隅に設置されたベンチに腰掛ける。 前屈みで手を組んだまま床を見つめる久米は、何かを考えているようだった。 不思議に思って視線を送る俺に気がついたのか、あいつは顔を上げる。 「お前、最近どうした?」 「何が?」 「何か、悩みでもあんのか?」 「いや、別に」 「友達なんだから、何でも言えよ」 「……友達、か」 何処か引っかかるような口調で呟き、久米の視線は再び下に落ちる。 様子のおかしい友人を残して行くのは気がかりだったけれど、時間も迫っていた。 「いつでも、電話して来い」 立ち上がり、久米の肩を軽く叩く。 俺を見上げる目は、あまりにも寂しげだった。 「奥田」 「ん?」 「悪い、オレ……」 唇を噛み、一息つく。 「お前のこと、ずっと、好きだった」 その時、俺は、どんな顔をしていたんだろう。 久米はやおら立ち上がり、元気でな、と言い残してエレベーターへ向かって行った。 去っていく背中を見ながら、自分の鼓動が早くなって行くことを感じる。 ずっと友達だと思っていた男からの、突然の告白。 あまりのことに、事態を認識することが怖かった。 *********************************** 満腹になった腹を抱え、車は再び高速道路を走る。 しばらく山の風景の中を走り、釜利谷JCTから首都高湾岸線に入ると 視界には横浜の街並みが広がってくる。 下った先に見えるのは、ベイブリッジとみなとみらい。 こんな位置から見る横浜は初めてで、改めてその魅力を認識した。 大黒JCTを抜けると、立体的な螺旋状の道路が見えてくる。 アクアラインの入口となる、浮島JCT。 トンネル内での分岐に気をつけながら、空中に浮いたようなカーブを曲がって行く。 料金所を越えれば、途中のPAである海ほたるまでは10km近い海中トンネル。 得も言われぬ緊張感が、アクセルを踏む力を、少し弱くさせた。 -- 4 -- 何処までも直線のトンネル。 100km/h前後のスピードで、左車線をひたすら走る。 右車線には、邪魔だと言わんばかりの車たちが走っていく。 自分一人が気をつけていたって、事故らないとは限らない。 そんな思いが、俺の緊張をますます高めて行く。 *********************************** 就職してからと言うもの、俺は毎日仕事に追われるようになった。 新人故の空回りも、多くあったかも知れない。 とにかく、業務について行くのが精一杯だった。 あれから久米とは、何通かのメールをやり取りしたくらいで だからと言って忘れた訳ではないのだけれど、俺の日常を占める割合は確実に減っていた。 正直、あいつの言葉が、電話をかける俺の手を制していた部分もあり 友達を失っていくような感覚に、自分勝手な寂しさを抱いていた。 久米も、俺自身も抱いていた不安が、現実になっていく。 「80km/hオーバーは、やりすぎだなぁ」 ある日の昼休み。 職場の先輩たちが食堂のTVを観ながら、そんな話をしていた。 交通事故のニュースのようで、現場はアクアラインの海底トンネル。 速度オーバーの車がハンドルを取られ、前後の車を巻き込んだ事故になったらしい。 死者は3名。 小さく見えたその字幕に、俺は釘付けになる。 そこには、久米の名前があった。 目の前が暗くなり、震えが止まらなくなる。 隣で昼飯を食べていた同僚が、あまりの動揺ぶりに声をかけてきたが 何て答えたのかは、覚えていない。 冷静に、そう言い聞かせて午後の業務に挑んだけれど、そんなことは全く出来ず トイレに駆け込んでは、不意に訪れる絶望感に耐えた。 何かの間違いであって欲しい、そう思わずにはいられなかった。 終業後、大学の研究室に電話を入れる。 電話口に出たのは、菊地先生だった。 「学会の、帰りだったんだ」 いつもの口調はすっかり消え去っていて、その悲しみの深さを悟る。 そして、この出来事が現実であることを、突きつけられた。 逗子で行われた学会には、学生たちが各々車を出して赴いたのだと言う。 東京湾フェリーで三浦半島に渡り、帰りはアクアラインで戻ってくる。 そんなプランは、学生の間から出されたもののようで 何台かの車に便乗する集団の中、久米も運転手を買って出たらしい。 その帰り道の、悲劇だった。 葬儀の予定や、幾つかの思い出話をした後、先生はポツリと言った。 「お前も、気をつけろよ」 彼は一瞬言葉を失うと、絞り出すような声で続ける。 「オレより若い奴が先に逝くのは……もう、耐えられない」 その潤んだ声に、俺は、はい、と言う二言すら返すことが出来なかった。 *********************************** 物凄いスピードで迫ってくる車がバックミラーに映り その姿が瞬時に、行く先の道路を滑るように消えて行った。 「危ねーんだよ、バカヤローが」 つい、口に出た。 車の運転にイライラは禁物。 そう自分に言い聞かせ、溶けかかったチョコレートを口に入れる。 『目的地まで、あと1km、です』 そんなナビの音声が聞こえてくると、長かった闇の道が急に開ける。 大きな客船のような建物が見えてきて、些か不思議な気分になった。 周りは全てが海。 その中に佇む、巨大な建物。 こんなところまで材料を持ってきて、構造物を作るなんて、どれだけ大変だっただろう。 職業病なのか、そんなことを考える。 海ほたるの駐車場は随分と混んでいて やっと見つけた空間は、入口からかなり離れた場所だった。 車から降りて、駐車場の後ろに広がる海を眺める。 視界は、ひたすら、青かった。 -- 5 -- 久米が言った、好き、と言う言葉。 あれから、その意味を考えない日は無かったかも知れない。 いつも笑顔を見せてくれていた久米。 けれど、最後に見たあいつの顔は、自身の中に持つ感情を吐露する悲壮な表情。 それに応えてやれなかったことが、俺の中で大きな後悔として残っていた。 この気持ちをどうやったら整理できるのか。 答えの無い問を、必死で考える、毎日。 *********************************** 静岡にある久米の実家では、彼の母親が出迎えてくれた。 「遠いところ、わざわざありがとうございます」 僅かに疲れを見せる母親は、優しい口調で感謝の念を述べる。 笑顔の写真に再会したのは、あれから2週間ほど経ってからのこと。 久米の葬儀には、仕事の都合でどうしても行くことが出来なかった為 改めてお伺いします、と連絡を入れておいた。 居間を抜けたところにある和室には、真新しい仏壇が置かれていて その中に、久米の写真が飾られていた。 あれは確か、大学4年の夏に行ったゼミ合宿でのもの。 俺が持っている写真では、久米の隣には俺が映っているはずだ。 あの笑顔を見ることも、笑い声を聞くことも、もう出来ない。 込み上げてくるものを堪えるよう、その前に座り、線香を手向ける。 「大学のお友達のことは、あまり知らないの。ごめんなさいね」 「いえ、お気になさらず」 出されたお茶を飲みながら、しばらく世間話をする。 お互い知らない同士と言う事もあり、おのずと話題は久米の話になった。 「……そう、6年間もお付き合いしてくださっていたのね」 「大学に入ってすぐ、親しくなったので」 「あまり実家にも帰って来なくて。まぁ、それだけ大学が楽しかったって事かしら」 「かも知れません。僕も、実家に帰るより、友達といる方が楽しかったですし」 「ご実家は、どちらなの?」 「山形の……尾花沢って所なんです」 寂しげな笑みを浮かべていた彼女の顔が、フッと緩む。 「スイカの名産地なんですって?」 「ええ、良くご存知ですね」 「秀晃が、そんなことを話していたなって、思って」 「え?」 「夏になると、スイカを持ってくる友達がいるんだって」 「ああ、確かに……実家から送られてくるスイカを、研究室で食べてました」 夏の風物詩、久米がそう笑っていた情景が蘇る。 「……っ、すみません」 感情の堰が、急に崩れた。 溢れる涙を、止められなかった。 「秀晃は、幸せね」 母親は、少し鼻をすするように、呟いた。 「いつまでも、思い出の中で、笑っていられるんだもの」 *********************************** 海ほたるの中は、あたかもショッピングモールのような作りだった。 土産物屋やレストランなどがひしめき、観光客も多い。 賑やかな雰囲気を感じていると、ここは本当に海の上なのか、そんな思いが過ぎる。 川崎方面を向くデッキへ出てみた。 遠くに川崎、横浜の影が見える。 相変わらず空は晴れ渡っていて、海の濃い青とのコントラストが眩しかった。 海の下には、俺が走ってきた海底トンネル。 久米が散った、場所。 あいつと友達で良かった、今でもそう思う。 それなのに、告白を聞いてから、その関係に歪みが生じたのも確かだった。 変わらない関係を望んでいた久米の気持ちを、未熟な嫌悪感で受け入れられず 後悔を引きずるように、ここまでやってきた。 昇華なんて、出来る訳無い、それがやっと分かった。 きっと俺は、久米を思い出す度に、この苦しさに苛まれるんだろう。 いつになったら、素直にあの笑顔を思い浮かべられるんだろう。 あいつがこんなことを望んでいないのは、分かっているけれど。 デッキの柵の向こうに広がる海を覗き込む。 午前中の海とは違い、波は穏やかになっていた。 「ごめん……ホントに……」 目の前に広がる青が、徐々に歪んでいく。 やがて、それは間を置かずに原形を留めなくなり、流れて行った。 Copyright 2011 まべちがわ All Rights Reserved.