いつまでもアメリカン。http://foreveramerican.blog89.fc2.com/ --- 籠絡(R18) --- -- 1 -- 白い首筋に指が滑る。 上向いた唇が重なり、グロスが光る下唇に舌が這う。 半開きになった小さな口から紅い舌が僅かに顔を出し、絡み合っていく。 喘ぐような、艶かしい息遣い。 息を飲み込み、揺れる喉仏。 「これ以上……ダメだって」 「何で?濡れちゃう?」 「違う、ってば」 彼は女の首筋を唇で撫でながら、俺に視線を向けてくる。 試すような歪んだ表情。 それに、どんな反応を返せば良いのか。 俺がゲイであること。 彼に仄かな想いを寄せていること。 目の前で女と絡む男は、それを知っている。 *********************************** 半年前、今日と同じようなセクキャバに連れて来られた時のこと。 気乗りしない様子の俺に、会社の先輩である稲葉さんが声をかけてきた。 「こう言うとこ、嫌い?」 「俺、ちょっと……苦手ですね」 「見た目通り、うぶだね」 そう言いながら、彼の隣にやってきた女の身体に手を這わせ、抱き寄せる。 「素直に、楽しんだら良いんだよ。火傷しない程度にね」 女と言う生き物が嫌いな訳じゃ無い。 ただ、恋愛感情も湧かないし、性的欲求も満たされない。 逃げ出せない状況で迫られると、嫌悪感さえ芽生えてくる。 入れ代わり立ち代りやってくる嬢を、そっけなく断っているのにも疲れて来て 雰囲気に水を差さないように席を立ち、店の外に逃げ出した。 池袋の片隅。 風俗街だけあって、周りには同じような店が立ち並んでいる。 ビルの壁に寄りかかり、煙草に火を点けた。 周りにバレないよう、こういう店の付き合いも断らない。 社会人になってから心がけている、苦行の一つだ。 けれど、それもそろそろ辛くなってきている。 男しか好きになれない。 その現実を受け入れざるを得ないと思い知らされて、どのくらい経ったんだろう。 ノンケだったら、どんなに楽だろうと考えることもある。 ゲイで良かったと思ったことだって、もちろんあるけれど これからずっと、こんな思いをして行かなきゃならないと思うと、堪らなくなってくる。 原色の光が眩しい光景に、ふと影が差した。 「こんなとこに、いたんだ」 その声で振り返ると、女と楽しんでいる筈の先輩が立っている。 「あ……すみません……」 「良いけどさ。気が付いたらいないから、そんなに長居しちゃったのかと思ったよ」 笑いながら、彼は自分の煙草に火を点けた。 「キャバクラくらいが、丁度良い?」 「ええ、まあ……そうですね」 煙を吐きながら、彼は俺の顔を窺う。 「いっつも、乗り気じゃない顔してるもんね」 「え……そんなこと」 「見てたら分かるよ。楽しくないのかな、って」 「そういうつもりじゃ……無いんですが」 何かを詮索されているようで、居心地が悪くなる。 時間は、既に12時を回っていた。 終電も近い。 「この後、どうするんですか?」 「加納君は、何か予定ある?」 「いえ、特には無いですけど……」 風俗はちょっと、そう言葉を続けようとした時、彼は遮るようにある提案を口にした。 「じゃ、オレの家で飲まない?」 一瞬、言葉が出なかった。 こうやって飲みに連れ出されることはよくあったけれど 互いの家に行ったりするほど深い仲では無い、ただの先輩・後輩の関係だと思っていた。 唐突な誘いに戸惑いを感じながら、俺はその誘いを受ける。 それは、自分の中に僅かばかりの下心があったことも、否定できなかったからだ。 -- 2 -- 店に行った後は、無駄に欲求不満になる。 それが、彼の口癖だ。 そして、欲求を解消するのが、俺の役目。 タイルの感触が、掌を通って背筋を強張らせる。 ワイシャツの上から胸の辺りをまさぐられ、吐息が震えた。 彼の手が、真ん中あたりのボタンを一つ二つ外し、シャツの中へ入り込んでくる。 俺の背中に彼の身体が密着して、耳の辺りに息がかかる。 片方の手が下半身へと下りていく。 静かに股間を触れられると、小さな呻きが喉を通っていった。 店からそう離れていない、大きな公園の公衆便所。 女とはキスしかしない彼は、ここで俺にモノを咥えさせて性欲を満足させる。 「こっち、向いて」 耳元の囁きに応ずるよう、俺は首を後ろへ回す。 間近に迫る彼の唇が、軽く鼻の頭に触れ、そのまま俺の唇に重なる。 拍子に、スラックスの上からモノを擦られ、息が荒くなった。 柔らかく、揉みしだくような手の動きに、徐々に腰が引けてくる。 眉間に皺を寄せる顔を見て、彼は満足そうに呟いた。 「しゃぶりたいって顔に、なって来たよ?」 便所の壁に寄りかかるようにしゃがみ込み、柔らかい状態の彼のモノに舌を伸ばす。 震える両手が、俺の顔を包むように触れる。 うな垂れる彼の顔に視線を向けながら、少しずつモノを口に含んでいった。 *********************************** 彼が住むマンションは、西武池袋線で数駅行った街にある。 池袋から見れば、俺が住む街とは逆方向。 今日はもう、自分の家には帰れないことを覚悟しなければならなかった。 途中のコンビニで幾つかの酒を買って、目的地へ到着する。 「狭いけど、まぁ、気にしないで」 「いえ……おじゃまします」 謙遜した口調とは程遠いその部屋は、男の一人暮らしとは思えないほど整頓されていて 否応無しに女の存在を感じさせた。 促されるままにソファに座り、ネクタイを少し緩める。 壁際に置かれたサイドボードの上には、液晶TVと小さなサボテンの鉢。 温和な性格の先輩を象徴するような、その緑の物体をしばらく眺めていると 酒の注がれたグラスが、ローテーブルの上に置かれた。 「こうやってゆっくり話すのも、良いかなって思ってね」 突然の誘いの理由を、彼はそう言った。 彼のいる営業部に配属されてから、もうじき1年。 接待の流れで飲みに行くことは多かったけれど 落ち着いて2人で話すことは、少なかったかも知れない。 俺の方に置かれたグラスを取り、口をつける。 若干濃い目のハイボール。 彼が好んで飲む酒だ。 炭酸の刺激をかき消すような、ウイスキーの風味とほろ苦さ。 眼鏡の奥で細くなる彼の目を見ながら、程よい酔いが、加速していくような気分になる。 密かな想いを抱くようになったのは、いつの頃だろう。 初めての営業職に戸惑いながら、先輩である彼に同行していた時期だろうか。 穏やかな口調、けれど知識に裏打ちされた自信が、その言葉に重みを持たせる。 簡単に引き下がらない諦めの悪さも、営業としての彼を引き立たせていた。 渋い顔をしたゼネコンの担当者が、彼の交渉で折れていく姿を見て 憧れと尊敬が膨らんで行き、やがてそれが、焦がれる気持ちへと変わって行った。 急に視界がぶれる。 手の力が抜け、慌ててグラスをテーブルに置いた。 「あ……れ?」 「どうしたの?」 「急に、酔いが、回ったみたいで」 こんな感覚は初めてだった。 まさに目が回るような視界の歪みに、まともに座っていられない。 「横になった方が良いよ」 向かいに座っていた稲葉さんが、俺の身体を支えてソファへ寝かせてくれる。 ぼんやりする意識の中で、彼の手が額に触れるのを感じた。 「……効き過ぎちゃったかな」 そう言った彼の表情を判別できないほど、俺は酩酊していた。 -- 3 -- 俺は彼を絶頂へ導く。 けれど、彼が俺の欲求を満たしてくれることは、無い。 口の中で徐々に大きくなるモノを、丁寧に舐めあげる。 頭上からは、隠しきれない喘ぐ吐息が降り注ぐ。 添える手で根元を扱きながら、先端をゆっくり唇で愛撫していくと 独特の妙味を帯びる液体が染み出してきた。 昂る身体を鎮めるのは、自分の手。 彼のモノを口に咥えながら、俺は自らを慰め始める。 ほんの少し触れられただけだと言うのに、身体と心は素直に反応していて 空気に触れる頃には、既に硬さを帯びていた。 撫でるように扱き始めると、口の隙間から息が抜けていく。 蔑む様な彼の視線が、俺の興奮を更に加速させる。 彼の腰の動きと共に揺れるネクタイを見上げる。 微かな喘ぎと、抑制された呻きと、いかがわしい水音。 まるで世間から切り離されてしまったような空間が、俺と彼だけの世界。 *********************************** ネクタイが抜け、ワイシャツの首元が開き、ベルトが外される音がする。 身を捩るのも億劫なくらいの倦怠感が全身を包んでいた。 「……すみません」 「構わないよ。ちょっと、水持ってくるね」 酒での失態は、初めてだった。 自他共に認める酒豪のはずだったのにと、くだらない腹立ちすら覚える。 冷蔵庫を開ける音がした後、彼は何処かへ電話をしているようだった。 何を話しているのかは、分からなかった。 部屋に戻って来るタイミングで言った一言で、電話は終わる。 「ああ、今日は掃除、いらないから」 彼の手が肩から背中の方へ差し込まれていく。 「ちょっと、頭起こせる?」 アームレストに頭を引っ掛けるように置き、彼が口に運んでくれた水を飲む。 喉を通る冷たい感触が、だるさを幾分紛らわせてくれる。 「ありがとう、ございます」 「寒い?」 「いえ……大丈夫です」 照明の光が、目を閉じていても頭を刺激するような気がして、自分の腕で目を覆う。 深く溜め息をつくと、気分だけは落ち着いてきた。 「加納君のこんな姿見るのは、初めてかも」 ソファにもたれるよう床に腰を下ろしたらしい先輩は、何処か楽しげにそう言った。 「俺も……ここまで酔ったのは、初めて、です」 「酒、強いもんね」 「そう、思ってましたけど……弱くなったの、かな」 「体調もあるから。今週は忙しかったし、疲れてたんじゃない?」 「ですか、ね」 腹の辺りに彼の腕の重さを感じる。 その腕が、身体を抱えるように腰へ回る。 普通じゃない雰囲気に、僅かに鼓動が早くなった。 「加納君さ」 「……はい」 「好きな人、いる?」 「えっ……いえ……別に」 突然の質問に、意中を明かすことも出来ず、おぼろげな意識の中でおぼつかない答えをする。 何故そんなことを聞いてくるのか、彼の意図が分からなかった。 「オレさ、自意識過剰なのかも知れないんだけど」 腰にある手が脇腹の方へと上がり、辺りを擦り始める。 「自分に好意を持ってる女って、大体分かるんだよね」 「そう……ですか」 「初めは勘みたいなもんなんだけど、まぁ、概ね当たってる」 「それは、どういうところで、分かるんですか?」 「これってポイントは、無いんだよ。ホント、勘」 腕をずらし、真っ直ぐに俺を見る彼を認めた。 レンズの向こうの目は相変わらず優しげで、妙な緊張感に包まれる。 「もしかしたら……男でも同じことが言えるんじゃないかって、思ってさ」 その言葉に、背筋が凍った。 尊敬する先輩。 それ以上の感情を表に出さないよう、出来るだけの努力をしてきたはずだ。 付き合いで乗り気じゃない顔を見せていたからだろうか。 俺のどんな行動で、彼は感情を悟ったのか。 巡る思考が、インターホンのチャイムで中断された。 -- 4 -- 彼の手で、火照る身体を鎮めて貰いたい。 そう思わないことは、一回も無い。 こんな行為をするようになってから、もうどれくらい経つのだろう。 その間、俺の欲求が満たされたことは、一度も無かった。 時間と共に、乞う感情も薄れてきたのか、何処かで諦めてしまったのか。 彼に奉仕するだけでも十分だ、そんな気持ちが大きくなっていた。 口に含むモノが、徐々に気道を圧迫していく。 鼻で大きく息を吸い込みながら、刺激を与える動きを大きくする。 やがて、彼は俺の頭を軽く叩いてから、自分のモノを口から抜き取り 自らの手で、便器に向かって精液を流していった。 少し疲れたような、満足げな彼の目に見つめられながら、俺は自身の身体を絶頂へ追い詰める。 「気持ち良いの?」 「ん……は、い」 「オレに犯されるところでも、想像してる?」 「……そ、んな……」 「良いよ?好きに妄想してくれて」 想いを寄せる男から受ける、精神的な辱め。 それが、心を蝕むように、快楽へと変わって行く。 *********************************** 徐々にはっきりして来た視界に入ってきたのは、派手な服に薄化粧の女だった。 「何?3Pなんて、聞いて無いけど?」 機嫌悪げな甘ったるい高音の声が、不快感を増幅させる。 「君は、彼の、フェラしてあげるだけで良いから」 「セックス無し?」 「ああ、今日は、それだけ」 何を話しているのか、咄嗟に判断できなかった。 身体を起こそうにも、まだ素直に言うことを聞いてくれない。 自分の身に起こりうることを想像して、徐々に血の気が引いていく。 荷物を床に無造作に置いた女は、ソファの傍に腰を下ろす。 必死で上半身を起こそうとした時、俺の肩口は稲葉さんに押さえつけられた。 「マジで、勘弁、して下さい」 「どうして?彼女、上手いよ?」 「そういう、じゃなくて……俺、ホントに」 女が、俺のスラックスに手を掛け、ファスナーを下ろしていく。 彼は、その顔を耳元に近づけて囁いた。 「……男にされる方が、良い訳?」 耳をそばだてていたらしい女の手が、止まる。 「何それ?」 言うことを聞かない身体を、男と女に押さえつけられながら 俺は完全に追い詰められた状況にあった。 言葉を発することもできず、許しを請うかのような視線を、彼に送ることしかできなかった。 そんな心情とは裏腹な、優しげな微笑みをたたえた彼は、震える俺の顔に手を当てて言う。 「じゃ、君は、オレのをしゃぶってよ」 それは、救いの手、だったんだろうか。 剥き出しにされたモノを弄りながら、彼女は怪訝な声を発する。 「あんた、そう言う趣味?」 「いや、そうじゃないけどね」 俺の顔の辺りに膝立ちになった彼は、そう言いながら俺の手を自らの股間に促した。 女に身体を弄られる嫌悪感と、彼との関係を持てると言う期待感。 感情は一方通行にも拘わらず、そのバランスがあらぬ方向へ崩れていく。 完全に開ききらない視界の向こうで、彼は変わらぬ笑みを浮かべていた。 女に咥えられるのは、初めてだ。 少し窮屈な感触が、男のフェラチオとは違う。 歯が当たるんじゃないかと言う恐怖が、下半身を緊張させる。 生温い、湿った刺激が全体を覆っても、なかなか快感には結びついて来なかった。 けれど、性的快感は、感情に大いに左右される。 そのことを実感するまでに、それほど時間はかからなかった。 俺の口は、彼のモノによって満たされていて ゆっくり頭を動かす度に見せる小さな反応が、俺の気分を昂ぶらせていく。 激しい動きで刺激を与えられない代わりに、先端を舌で転がし、喉の奥で締め付けるように包む。 彼の手が俺の首に回り、開いた襟元から、肩の方へ入り込んでくる。 勃つはずが無い、そう思っていた身体は、予想しなかった反応を見せ始めた。 「女にされても、ちゃんと、勃つんだね」 彼のモノを咥えていると言う事実で興奮した身体を、彼女のフェラが促進しているのかも知れない。 何にせよ、早いストロークでもたらされる刺激が、徐々に快感として沁みてくる。 ワイシャツのボタンが胸の辺りまで外され、上半身をゆっくりとまさぐられる。 深い息を吐く弾みに、つい声が漏れた。 男女二人に刺激される身体が、未経験の快楽へと追いやられていく。 -- 5 -- 疼きから解放された身体を、水栓から流れ出る水で冷まして行く。 鏡に映る背後の彼の表情は、やっぱり穏やかで その笑みを見る度に、未だに把握しきれない彼の心の内を知りたい気持ちが大きくなる。 不意に、後ろから抱き締められる。 「稲葉さん、ちょっと……」 トイレの狭いブース以外の場所で、彼が積極的なアプローチをしてくることは無い。 彼にとって、俺は性欲を解消する為だけのパートナー。 歪んだ時間の中で、やっと、それで満足出来る様になってきた。 だからこそ、些細な感情の揺さぶりが、俺には残酷な仕打ちにしか感じられなかった。 「まずいですよ……誰か、来たら」 「じゃあ、今晩、ウチに来ない?」 うろたえる俺とは対照的に、彼は俺の胸の辺りで組んだ手をそのままに、誘う。 彼の家に行くのは、あの夜以来、初めてだった。 「……大丈夫、今日は、何もしないから」 鏡越しに向けられる視線。 それを受け止める程、彼への好意と畏怖の狭間で、心が揺れて行く。 *********************************** 「男のフェラって、初めて見たかも」 いきり立ったモノを手で扱きながら、物珍しそうに女は言った。 居た堪れなくなる気分が、口への圧迫感と、下半身にもたらされる快楽に溶かされる。 胸の上から腰まで露わにされた格好で、俺は本能のままに、彼のモノにしゃぶりついていた。 「気持ち良い訳?」 自分を差し置いて何なの、そんな気分なのだろうか。 俺の髪を撫でながら行為を受け入れる彼に、女は若干不機嫌なトーンで問いかける。 「ああ……結構、良いよ?」 「ふ~ん……」 「男に、妬くな、って」 「そうだけど」 女の顔が、徐々に上半身へ上がってくるのを感じる。 その舌が、腹や胸の辺りを柔らかく刺激していく。 「ねぇ」 誰にとも付かない呼びかけが、耳に触る。 「入れちゃ、ダメ?」 声にならない声が、喉の奥から出る。 嫌悪感が、一気に押し寄せた。 俺の動揺を察知したのか、彼は俺の頭を軽く押さえつけながら、言った。 「ダメ」 「何で?アンタたちだけ気持ち良くなって、ずるいよ」 「言っただろ?今日は、フェラするだけで、良いって」 「口より、ナカの方が絶対気持ち良いよ」 「オレが、嫌なの。だから、ダメ」 「何それ。訳わかんない」 「そこで、オナってても、良いよ?オレ、見てて、あげる」 彼の腰の動きが、段々と早くなっていく。 荒い息遣いが水音に混ざり、増長される。 視線を上げると、歪む表情が目に入った。 その顔が身体の昂りを一層強くして、自らの身体を震わせる。 モノに与えられる刺激は、ぎこちない強弱を繰り返しながら、俺を絶頂へ追い詰める。 くぐもった喘ぎが各々の身体から発せられている、奇妙な空間。 狭苦しい空間から解放されたモノが、女の手によって扱かれる。 思わず、腰が浮いた。 それを見た彼は、自らのモノを俺の口から抜き、俺の腹の辺りで弄り始める。 「一緒に、イく?」 心を支配するかのような笑みで、そう問いかけられる。 乾いた叫びと共に、視界が白くなった。 腹の上に撒かれた二人分の精液が脇腹を落ちていく感触が、意識をはっきりさせていく。 女は、俺の足にしがみつく様にソファに身を任せていた。 「や、やだっ」 「こんなに濡らして、何言ってんの?」 「は……あ、っん」 背後から覆い被さるように、彼は女の身体を抱えて、指での愛撫を続ける。 官能に溶かされているのが、俺の足を掴む彼女の手の力で、嫌と言うほど感じられた。 淫らな音が、衣服の中から僅かに聞こえてくる。 「そこ、だめ……」 「そう?凄い、指、締め付けてるよ?」 「やっ……あ」 彼の肩に力が入り、女は更に嬌声を上げる。 その姿を見ながら、俺の心は冷静さを失っていく。 彼にとっての当たり前の行為が、俺には嫉妬の対象でしか無かった。 女がシャワーを浴びている間、彼は俺の腹の上で混ざり合った精液を拭き取り 皺になったワイシャツを脱がし、着替えを渡してくれた。 「彼女が出たら、君も浴びてくると良いよ」 乱れたワイシャツ姿で、彼は言った。 身体のだるさは、殆ど抜けている。 ソファに身を預けるよう、上半身を起こす。 どうしてこんなことになったのか、よく分からない。 それを彼に聞くべきなのかも、分からなかった。 突然、彼の顔が視界に入ってくる。 その手が俺の顔を包み、彼は静かに訊ねた。 「加納君、オレのこと、好き?」 -- 6 -- サボテンが少し大きくなったように見えたのは、きっと気のせいだろう。 あの時と比べると、部屋の中は随分雑然としていた。 女を呼ぶのを止めたから、彼は笑ってその理由を話した。 促されるままに、俺はソファに腰を下ろす。 上着もそのままに隣に座った彼の顔が、すぐ目の前まで迫ってくる。 けれど、唇が触れ合うか、触れ合わないかの距離から、その隙間が縮まることはなかった。 「言った通り、今日は、何もしないよ?」 戸惑う俺に、彼は優しい口調で続ける。 「でも、君がして欲しいことを言ってくれれば、何でもする」 「……え?」 「オレは、君の気持ちが読める訳じゃ無い」 眼鏡の奥の目が、ふと切なげな光を宿す。 「素直に言ってくれなきゃ、分からないよ。君が、本当は何を望んでいるのか」 あの夜の質問以降、俺は自分の気持ちを彼に話すことは殆ど無かった。 ゲイ故の、受け身な恋。 何かを求めることで、全てを失ってしまう気がしていた。 彼との日常を過ごす中で、この関係に何処か妥協してしまったところがあったかも知れない。 それなのに、俺は何処かで、彼に悟って欲しいと思う気持ちがあった。 何も言えないまま、為すがままに流されて来た結果が、互いを戸惑わせている。 「加納君、オレのこと、まだ、好き?」 真っ直ぐな視線が、心に刺さった。 諦めの気持ちは、彼への想いまで歪めてしまったのだろうか。 その問いに、すぐには答えが出せなかった。 「正直、嫌悪感も、違和感もあるんだ」 男に想いを寄せられる男の気持ちを、彼はそう表現した。 「だから、君を試すようなこともした。なのに、君は、何も言わない」 彼の手が俺の肩に乗り、距離が更に近くなる。 冷静さを欠いた吐息が、顔を火照らせた。 「オレが女とキスしても、切ない顔をするだけだったしね」 「それは……」 「男同士って、そんなもの?」 「そういう訳じゃ」 「……やめてくれって、言われるのを待っていたような気もする」 何度も思った。 嫉妬に駆られながら、けれど、彼が女とキスをするのは、日常。 俺と彼との相違を実感しながら、自分にそう言い聞かせてきた。 それなのに。 「キスしてくれって言っても、オレは目の前から消えたりしないよ?」 重ねられるのを待つだけの唇、手を伸ばされるのを待つだけの身体。 そのしがらみを振り切るように、彼の腕に手を添える。 微かに震えている腕の感触が、俺の気持ちを目覚めさせてくれた。 俺は、彼が好きだ。 こんな関係は、もう、耐えられない。 「……キスして、下さい」 首を傾げた顔が近づいてきて、柔らかな感触が唇に纏う。 触れ合っては離れを何回か繰り返した後、彼の舌が軽く唇をなぞった。 自分の舌を差し出し、触れ合わせる。 荒い息が身体を昂ぶらせ、首に絡みつく腕の力が強くなった。 ぎこちなく動く物体を、味わうようにじっくり舐る。 奉仕の合図じゃない、自らが望んだ口づけ。 歪んだ視界の奥に映る男に、飲み込まれていくような感覚に見舞われていた。 長い長いキスの後、俺は彼に一つの問いかけをする。 「稲葉さんは……俺のこと、どう思ってるんですか」 答えが返ってくるまでの一瞬の不安が、柔らかな眼差しに融かされた。 「オレが抱いている感情が、恋愛感情かどうか、自分でもはっきりしないんだ。でも……」 彼は俺の手を取り、自らの頬に押し付ける。 「君の望むことを、してあげたいと思ってる」 「望む、こと?」 「男が男に求めることが、オレには分からない。だから、君に手を引いて貰いたいんだ」 彼の後ろをついていくだけで満足していた自分。 経験の無い感情に惑う彼を正面から見ることもなく、気が付かないまま時間だけが過ぎていた。 徐々に熱を帯びてくる顔の表情が、ふと緩む。 「オレが、今、して欲しいと思ってること、してくれる?」 この恋に落ちていいのか、戸惑う気持ちが、細くなった目に背中を押される。 俺は、彼の手を引くべく、再び唇を重ねた。 -- 7 -- 彼の身体を見るのは、初めてだった。 スーツの下に隠れていた上半身は思っていた以上に筋肉質で、無意識に目を奪われる。 「一緒に入る?」 その視線に気がついたのだろうか、彼はからかう様な笑みを浮かべ、そう聞いてきた。 うろたえる俺に、彼は次の一手を打っては来ない。 あくまでも、乞われる言葉を待っている。 意地悪な人だ。 そう思いながら、俺は自分のスーツに手をかける。 彼の顔が、シャワーの湯で濡れていくのを見ていた。 不意に振り向いた彼に、正面から抱き締められる。 あまりにも直接的な体温と鼓動が、身体を強張らせた。 「何か、不思議な感じ」 「え?」 「男同士で、裸になって、こうやって抱き合うのって」 「……嫌、ですか?」 「そうじゃないけど……現実なんだなって、思ってね」 途方に暮れるような彼の言葉。 本当に彼の手を引くべきなのか。 女とは違う身体を自らの腕に抱える彼は、やはり何も言わず、俺の動きを待っているかのようだった。 濡れた髪に手を伸ばす。 水の流れに押される様に、首元から肩へ滑らせた。 「嫌だったら……言って下さい」 その言葉が、彼の表情を曇らせる。 身体がユニットバスの壁に押し付けられ、真剣な目が、すぐそばまで迫った。 「この期に及んで、それは、ずるいよ?」 「そんな、つもりじゃ……」 「不安なのは、君だけじゃない」 「すみません……でも」 真っ直ぐな視線に引っ張られるよう、彼と目を合わせる。 咄嗟に言葉が出なかった。 「……嫌われたく、無い」 濡れた唇が、震える息を遮った。 程なく離れた彼の顔は、穏やかな表情に戻っていた。 「嫌われるより、諦める方が、良いんだ?」 居た堪れずに視線を逸らす俺の顎に手を添え、それをさせまいとする。 「ああ、何か、しつこいな。オレ」 口の端を僅かに上げ、彼は再び問いただす。 「オレのこと、好き?」 視線を投げても、態度で示しても、結局最後の決め手は言葉。 何処までも逃げ腰な俺に、そう示してくれているのかも知れない。 「……好きです」 震える声が、狭い空間に低く響く。 彼は一瞬目を閉じて、再び俺の顔を見る。 「じゃあ、もっと、強く引っ張って。オレの心も、一緒に」 手が、濡れた身体を滑る。 ずっと求めていたその感触が、心まで揺らす。 湿気の篭った狭い空間で、熱くなった互いの身体を触れ合わせた。 「改めて触ってみると……思ったよりも、柔らかいもんだね」 背中から尻の方へ手を伸ばしながら、彼はそう囁く。 俺の手に感じられる感覚は、イメージ通りの程よい硬さで 今まで女の身体しか触ることが無かった彼との、感度の違いを実感した。 不意に、彼のモノが俺の内腿に当たる。 彼が言った、現実。 それを思い知らされる。 俺は、自分が望んで来た関係を、これから彼と持つ。 太腿から前の方へ移動してくる手の気配に、緊張で、思わず息を飲んだ。 しかし、寸でのところで手が止まる。 「続きは、ベッドにしようか」 その声は、冷静さを欠いていた。 「顔が見えないと、もったいない、からさ」 この人は、きっと女にも同じような言葉を吐くんだろう。 冷静に思う反面、嬉しさが込み上げた。 -- 8 -- ベッドで、と言う言葉は何処に行ったのか。 ユニットバスを出て、洗面台に置いていた眼鏡を手に取った彼は 濡れた身体もそのままに、俺の手を掴み、そのまま引き寄せた。 拭いたばかりの身体が再び湿っていく。 ぼんやりと曇ったレンズの向こうの眼は、しっかりと俺を捕らえていた。 「風邪、引きますよ」 「……そうだね」 彼はドアの取っ手に引っ掛けたバスタオルに手を伸ばし、俺の頭に載せる。 髪をくしゃくしゃにされ、視界が青い布に遮られた。 しばらくすると、その布と共に手が身体を弄っていく。 布越しの柔らかい感触が、妙に心地良い。 「はい、交代」 水分を含み、重くなったバスタオルを手渡された。 何処か楽しげな彼の様子に違和感を感じながら、その身体を拭いていく。 「いつも、こんなこと……」 「しないよ」 俺の問を遮るように、彼は答える。 「……何だろうね。ベッドにどう行ったら良いのかも、分からなくなってる」 不意に、彼の顔に困惑が過ぎった。 バスタオルを洗面台に置き、彼の頬を両手で包み、唇を重ねた。 僅かに開いた隙間に、舌を捻じ込む。 くぐもった声と共に、その眉間に皺が寄った。 やがて、自由になった舌が絡み合う。 徐々に激しさを増していく吐息と水音が、鼓動を早くした。 低く抑制された互いの声が、空間に響く。 まるで前戯のような、キス。 舌の感触が、唇を、全身を震わせる頃、俺は彼に求める。 「俺を……稲葉さんの手で、イかせて下さい」 そして、彼の手を強く握った。 ベッドが置かれた部屋には、ノートPCが乗った机や本棚もあって 些かの生活感が、感情の昂りを抑制するような感に囚われた。 彼の手を引き、女としか寝たことの無いであろうベッドに、男二人が横になる。 俺の上に覆い被さる格好になった彼は、腕で俺の顔を挟み込むよう抱えて、額に軽く口付ける。 「寒い?」 「少し……」 軽くはにかんだ彼は、身体を密着させるように沈み込み、その顔を徐々に下へ移動させた。 首筋を唇が這い、手が胸の辺りをまさぐる。 右手で彼の頭を抱えながら、その柔らかい感触に身を震わせる。 吐く息が、熱くなるのを感じた。 彼の指と舌が、双方の乳首をゆっくりと刺激する。 つい、声が出た。 小さな快感が肩を浮き沈みさせる。 舐る様子を見せ付けるように、その視線を俺に向けたまま、彼は大きく舌を動かす。 彼を見つめる視界が、揺らいだ。 ずっと想いを寄せてきた、会社の先輩。 ここに来て、急に恥ずかしさが込み上げる。 眼差しに耐えられず、顔を背けて眼を閉じた。 撫でられていただけの突起が、摘み上げられる。 その感覚に、思わず喘ぐ。 「目、開けて」 耳のすぐ側で、彼の囁きが身体を駆ける。 歪な視界の中は、彼の顔が殆どを占めていた。 「オレのこと、見てて」 指の動きは止まらない。 震える唇からは、微かな声の混ざる吐息だけが発せられる。 彼の腕を掴み、力を込めた。 不純な動機を汲んでくれたのか、指の力が強くなった。 「う……」 双方の乳首への刺激が全身を強張らせ、下半身の興奮を高める。 「ここ、好き?」 彼の息遣いが、平静さを失っていく。 崩れていく理性が、見えるようだった。 「は……い」 舌で唇を撫でられ、促されるように自分の舌を差し出す。 吸い付かれるように舐られ、無防備になった口からは情け無い声が漏れる。 片方の手が、疼く部分に向かう。 その気配が、怒張に更に拍車をかける。 手の動きが一瞬戸惑いを見せた後、体温がモノに纏わりつく。 根元の辺りを緩やかに揉みしだきながら、その感触を確かめているようだった。 直接的な快感が、頭の中を白くする。 「嫌だったら、言ってくれなんて、オレは言わない」 親指が、濡れた先端を撫でる。 深く強い吐息が、彼の髪を揺らした。 「それで、良いよね?」 -- 9 -- 身体は、彼にもたらされる全ての刺激を求めていた。 彼は俺の首の下から腕を回し、焦らすように乳首を指で撫でる。 逆の手は、やはりもったいぶるような動きで、モノを扱く。 片膝を立て、彼の方へ体を傾けた俺は 向けられる視線を避けることも出来ないまま、焦燥感に煽られた快楽に溺れていた。 「こんな加納君の顔、見るの初めてだね」 そう言って、彼は閉じかけた瞼に舌を這わす。 「見慣れた顔のはずなのに……すごい、そそられる」 彼の下半身が腰の辺りに擦り付けられ、その興奮が肌を伝わって感じられる。 幾分柔らかさの残る彼のモノは、十分に昂っている様だった。 胸をまさぐる彼の手に、自分の手を添える。 けれど、その動きに変化は無かった。 彼の目が、少し細くなる。 「……どうしたの?」 羞恥心が身体の疼きに掻き消されていく。 「もっと……」 「こう?」 捻り上げられるような強い刺激が、痛みと共に頭の先まで走った。 「いっ……あ……」 「痛いの、好き、みたいだね」 何処か愉快そうに投げる彼の言葉に、強張る身体が支配されていく。 下顎が震えて、否定する思いが声にならない。 「すごい、ヌルヌルだよ」 聞こえないはずの恥ずかしい音が、耳に響くようだった。 彼は頬に軽くキスをしながら、俺の手をもう一方の性感帯へ導く。 「もっと、やらしい顔見せて、オレのこと、煽ってよ」 自分で刺激を求める動きには、どうしても躊躇が残る。 力を入れて摘み上げているつもりでも、全身を突き抜ける刺激が得られない。 その様子に気が付いたのか、彷徨う指に、彼の指が添えられる。 「こうしたら?」 そう言うと、乳首を捻り潰す様に、指を交叉させた。 あまりの痛みに、喉の奥から乾いた音が出る。 思わず首を振って抵抗の仕草を見せると、彼はモノを扱く手を速めてきた。 大きな波が、頭の中を空にする。 「あ……む、無理……」 「何が?」 潤む視界の中の彼が、目を細めて俺を見つめている。 悦楽の時間の終わりが近いことを感じ、思わず激しく動く彼の手を制した。 「イきそう?」 その問に、軽く首を振って答える。 「まだ、イき、たく……ない」 「もっと、焦らして欲しい?」 「……は、い」 「じゃ、もうちょっと、愉しもうか」 その唇が俺の唇に触れ、彼は俺の身体から離れていく。 身体を起こされ、上半身がヘッドボードに寄りかかるよう、座らせられた。 俺と向かい合うよう、広げた足の間に座った彼は、不意に俺の左足を手に取り そのまま、くるぶしの辺りから、舌を這わせ始めた。 バランスを崩して右側に身体を傾けたまま、柔らかな刺激に身を捩る。 ふくらはぎから膝の裏、内腿の辺りまで、湿った感覚と興奮した息遣いが纏っていく。 若干無理な体勢で痺れかけた足が解放されると、彼は手に舌を伸ばす。 一本一本の指を丁寧に舐り、手の甲から手首、肘から二の腕に至るまで 彼の唾液が筋を付けていった。 その舌は、肩を経由して首筋へ至る。 耳に差し込まれた熱い感覚が、違和感と共に興奮を生む。 彼の手が、限界を迎えそうなモノに触れると、吐く息が震えた。 「今まで、どんなセックス、してきたの?」 「どん、な……って」 「オレが初めてじゃ、無いでしょ?」 「違い、ます……けど」 「聞きたいな。ケツに入れたりも、するの?」 何処かしら昂りを感じる口調で、彼は矢継ぎ早にそんな問を繰り出す。 答えに戸惑っていると、粘液を纏ったモノをゆっくりと扱き、玉を転がすように軽く握る。 しばらくすると尻の下に手が入ってきて、腰が引けた。 経験が無い訳じゃ、無かった。 感じない訳でも、無い。 それなのに、未だに抵抗があることも、確かだった。 ローションを使っても尚、指1本入れられるのが精一杯の場所に 無理矢理モノを入れなければ得られない刺激に囚われるのが、怖かった。 「お、れは……」 「他の男が入れてるのに、オレが入れないのは、悔しいかな、って」 割れ目に沿って、指が動く。 くすぐったい、居心地の悪い感覚が、背筋を痺れさせる。 穴の上を、解すかのように指が小刻みに動いた。 受け入れるべきなのか。 恐怖と期待の中で、心が翻弄される。 -- 10 -- 「ちょっと、四つん這いになってくれる?」 そう言って、彼は俺の手を引いた。 嫌という一言が言えぬまま、彼が求める体勢を取る。 突き出した尻の辺りに冷たい眼鏡の感触が当たる。 その感触は、すぐに、尾てい骨を這う温かな舌の感触に取って代わられた。 彼の唾液が狭い隙間を満たしながら下の方へ降りていく。 腰周りの緊張が、肩を震わせた。 手で割れ目を広げ、彼は更に深く顔を沈めていく。 隠し切れない興奮の音が部屋に響いた。 得も言われぬ刺激の中で、意識と身体が解れて行くようだった。 指先が入口にかかり、捻るように押し広げられる。 その行為が気持ちを暗転させた。 「い、なば、さん……」 ふと動きを止めて、彼は求めるように聞く。 「……ダメ?」 「そこ、は……」 彼の手が、俺のモノに伸びる。 昂揚しきっていたはずなのに、葛藤が萎縮させてしまったのか。 感触を確かめるように、しばらく弄った後、彼は呟いた。 「……しょうがないか」 柔らかくなったモノが熱く狭い空間に包まれる。 俺もまた、目の前に迫るいきり立ったモノに舌を伸ばす。 覆い被さる彼の体重を僅かに感じながら、しゃぶりついた。 汗ばんだ太腿を撫でながら、先端から根元に向かって舐め上げると 物体で満たされている彼の口からくぐもった声が漏れる。 先端を唇で挟みながら舌でじっくりと舐っていくと、堪りかねた喘ぎが聞こえた。 一方で、散々焦らされた身体は、一度冷静さを取り戻しても、再び激情するのは容易かった。 彼のぎこちないフェラチオでも、徐々に口に力が入らなくなってくる。 目の前の腰を掴む手に力を込めると、彼は体勢を変え、俺の横に身を倒す。 「イっちゃう?」 「……イかせて……下さい」 「じゃ、オレのも、弄ってて」 頭が彼の胸に抱えられ、モノが彼の手によって扱かれる。 荒々しい心音を肌で感じながら、程なく俺は果てた。 余韻の中で、顔の前に差し出されたモノを咥える。 ゆっくりと腰を動かす彼の手が、俺の頭を優しく撫でていた。 段々と動きを激しくして行く内に、頭上からの息遣いに声が混ざってくる。 一層の勃起を感じ、喉の奥まで飲み込むように吸い付いた。 「も……やば、い」 その言葉を合図に、彼の尻を抱えるように腕を回す。 口から抜かれないように、一気に絶頂を与えた。 「かの、う……くんっ」 瞬間、口の中に精液が満ちる。 久しぶりの妙味を無理矢理飲み込んだ。 取り出されていくモノを名残惜しい気分で舐る。 見上げると、彼の柔和な、けれど昂った目が俺を見ていた。 シャワーの湯が気持ちを落ち着かせていく。 背後から彼の腕が腰に回る。 「あんな感じで、良いの?」 湯が、密着する身体の間を辛うじて通っていく。 腕が流れに逆らうように上がり、俺の首筋に添えられた。 それに促されるよう、顔を彼の方へ向ける。 彼の問には視線で答えた。 「これで満足、なんて、言わないよね?」 「え?」 「オレの知らない君を、もっと感じたい」 真剣な表情に、言葉が出なかった。 濡れた唇が触れ合い、耳元へ滑る。 「もう、切ない顔、させないから」 「……はい」 「今日ので、相当引っ張られたな。オレ」 フッと笑い、一息ついた後、彼は囁いた。 「好きだよ」 水が落ちる音にかき消されるほど、小さな囁きは 気が遠くなるほど、俺の感情を溢れさせた。 唇をグロスで濡らしていた彼を見ることも、便所でひたすら奉仕することも無くなった。 諦めきっていた感情を彼の手が引き、戸惑いの中にあった感情を俺の手が引いていく。 互いの心を、身体を惹きつけ合う日々が こんなに心を満たしてくれるなんて、思ってもみなかった。 サボテンが大きく見えるようになるまで、一体どれくらいの月日が必要なんだろう。 ゆっくり、ゆっくり、その生長を見守りながら 微笑む彼の唇に自分の唇を重ね、蕩ける時間に嵌り込んで行く。 Copyright 2011 まべちがわ All Rights Reserved.