いつまでもアメリカン。http://foreveramerican.blog89.fc2.com/ --- 夢路(R18) --- -- 1 -- 「今日は、何処に行きたい?」 運転席に座る彼の問いかけが、身体を更に追い詰める。 「お台場の方なんか、良いかもね。それなりに車も走ってるだろうし」 「……お任せ、します」 身体が熱い。 背筋を汗が流れる感覚に、意識を呼び戻される。 「ちょっと、渋滞してるのかな」 遠くに、ヘッドライトの赤い光が連なっている。 車はやがて速度を落とし、完全に停止した。 助手席側の窓が少し開いて、生温い風が入り込んでくる。 彼がスーツの胸ポケットから取り出した一つの物体。 子供の玩具のような粗雑な作りとカラーリング。 俺に見せ付けるようにしばらく弄び、その物で頬を撫でる。 緊張で、喉が揺れた。 「もう、堪らないって顔だね」 彼の指が物体の突起を押し込むと同時に、身体を駆け抜ける刺激。 思わず喉から呻き声が漏れ、上半身が前傾した。 「そんな感じ方じゃ、誰も気付いてくれないよ?」 再び物を胸ポケットにしまい込み、彼は車を発進させる。 絶え間ない振動の中、潤む車窓が流れていく。 梅雨も終わろうとしている、この季節。 殺人的な暑さと湿気が、外回りの身には心底堪える。 サボろうと画策するサラリーマンの思考は概ね似通っているようで 行きつけのビデオボックスは、昼間の2時だと言うのに既に満席だった。 仕方なく足を向けたのは、路地裏にある成人映画館。 特殊な性癖を持つ男女が跋扈すると言うイメージが強すぎて、初めは見向きもしなかったが 冒険心をそそられて一度入ってから、ここは、それほどでもないと言うことを知った。 えげつない題名を付けられたポルノ映画が、何となく空調が効いた空間で垂れ流されている。 中段の端の席に座る。 見渡すと、チラホラと座る客の殆どがサラリーマンのようで、皆一様にぐったりと座席に身を任せていた。 スクリーンでは、時代遅れの服装をした人妻が、宅配便の男に組み敷かれている。 ハスキーな女優の声が、妙に眠気を誘う。 とりあえず、2時間くらいここで暇を潰して会社に戻ろう、そんなことを考えた。 人妻と宅配便の男、人妻の夫の泥沼関係になるかと思いきや、何故か仲良く3P。 何て展開だと呆れ気味で視線を泳がせていた時、背後の席に誰かが座る気配がした。 これだけ空いているのに、わざわざ近くに座るのには訳がある。 沸き上がる不安は、すぐに的中した。 後ろから口を塞がれ、誰かの顔が耳の後ろに近づいてくる。 凍りつくような恐怖の中、男の声が耳元で響いた。 「お兄さん、こう言うの、興味ある?」 背後から回された手が、ワイシャツの上から胸を撫でる。 抵抗しようと身体を捩ると、何処からとも無く手が伸びて来て、座席に押さえつけられた。 何時からいたのか、すぐ脇の通路にしゃがみ込む男は、俺の腕を掴んだままで顔を近づけてくる。 「お、結構可愛いじゃん」 気味の悪い笑顔が、身も心も硬直させる。 ゆっくりとネクタイが緩められ、やがて解ける。 人の気配が更に増えていく。 映画はスタッフロールが流れ、終わりに近づく。 けれど、降り掛かった厄災は、これから始まる。 どうして俺なんだ。 同じようなサラリーマンは、他にもいたのに。 理不尽な事に対する答など求めることも出来ないまま、何本もの手が伸びてくる。 喉の奥から出る叫び声は、男の一言で引っ込んだ。 「あんまり大きな声出すと、皆に気付かれるよ?……見られたいなら、別だけど」 ワイシャツの前が開けられ、中に来ているTシャツの上から他人の体温が沁みていく。 下半身に伸びる手は、スラックスの上から太腿を撫でる。 3本立ての映画の2本目が始まったようだった。 どんなタイトルなのかも頭には入ってこない。 ただ、この時間がどういう結末を迎えるのか、それだけが頭を巡っていた。 両脇に陣取る男は、双方に近い方の俺の腕と脚を絡め取る。 露わにされた上半身を、男の舌が這って行く。 「真面目にお仕事しないとダメだな、お兄さん」 背後の男は興奮を隠しながら、穏やかな口調で語りかける。 うなじを滑る舌の感覚が、二の腕に鳥肌を立てた。 スラックスの中に入り込んだ手が、モノをゆっくり扱き出す。 首を振って足掻いたところで、何も功は奏しない。 「男にイかされるのも、そう悪いもんじゃないよ?」 そんな訳無い、そう思っているのに、執拗に繰り返される愛撫が心を揺さぶる。 頭をもたげたままのモノが空気に晒される。 心が折れるかも知れない、その恐怖が、冷や汗と共に流れた。 男の頭が、自分の股間の上で蠢いている。 上向かされた視線には、前の席から覗き込む複数の男が入ってくる。 痺れるような刺激に震える身体を、幾つもの目が捕らえていた。 「皆が、見てるぞ?」 誰かが放った一言が、不意に身体を昂らせる。 モノを咥えた男が、俺の方へ視線を送り、下衆な笑みを浮かべた。 「見られて興奮するなんて、素質あるんじゃねぇの?」 -- 2 -- 図星だったのかも知れない。 暗がりの中で、手と口と視線が身体を蹂躙していく。 数人の男たちは、俺の姿を見て興奮しているのか、自らを慰める行為を始める。 抗う気持ちが無い訳じゃ無かった。 それなのに、異様な空間に引き摺りこまれることに抵抗し切れない。 モノに吸い付く口、乳首を弾く指、舐めるような視線。 有り得ない快楽に溺れそうだった。 男の口がモノから離れ、唾液と、自らの昂りを示す液体に塗れた口が、顔に近づいてくる。 「兄ちゃんのオナニー、見せてよ」 そう言いながら、俺の手をモノへ促す。 僅かに触れたそれは、完全に張り詰めている状態だった。 「恥ずかしい格好見られるの、嫌いじゃないみたいだし」 背後の男の呟きが、堰を崩す。 人前でするような行為じゃないのに、そんな想いが、更に身体を熱くする。 塞がれていた口が解放され、震える溜め息が漏れた。 眼差しを一身に集める部分に手を添え、ゆっくりと扱き出す。 「ノンケのリーマンがここまでするとはね」 そんな嘲笑すら、快楽の糧になる。 首から顎を撫でる指が、口の中に押し込まれ、思わず呻き声がもれる。 「見られながらシコる気分は、どう?」 愉快そうな声の問に、答えられる余裕は無かった。 目を閉じていても刺す様に感じる男たちの視線。 認めたくない意識とは裏腹に、身体はどんどん登りつめていく。 やがて、意識が閃く様に白くなり、俺は果てた。 モノを掴んだまま動けない右手を、精液が流れていく。 周りの男たちは、いい物を見せてもらったとばかりの表情で、去って行った。 辺りには彼らの欲求を満たした跡が散乱していた。 呆然とする視界に、ポケットティッシュが差し出される。 手に取り、ばら撒かれた液体を拭き取っていく。 余韻が消し去られるほどに戻って来た冷静さを、男の囁きが、再び奪い去った。 「もっと面白い夢、見せてあげようか?」 本来、人に見られたく無い行為を、見て欲しいと思う背徳感。 男が教えてくれたのは、その欲望の満たし方だった。 俺より一回りくらい上であろう男は、ホシノと名乗った。 当然、偽名だ。 だから、俺もトクナガ、と適当な名前を言った。 どうせ、名前を呼び合うような関係でも無い。 こんなのは、携帯のアドレス帳を飾るだけの、只の文字でしかない。 週末の夜になると、彼から誘いの電話がかかってくる。 待ち合わせ場所は毎回違うけれど、必ず大きな公園の片隅。 その公衆便所で、まずは下準備が施される。 奥まったブースの中。 壁に手をつき腰を突き出した状態で露わになっている尻に、生暖かい粘液が垂らされる。 彼の指が、それを纏いながら尻の穴を解す。 窮屈な感覚に強張る身体の中に、静かに異物が差し込まれ、埋まっていく。 深い息が漏れ、鼓動が早くなる。 「すっかり、飲み込むのも上手くなったね」 その声は、いつも変わらず優しげで、些細な反抗心を削り取る。 まるで全て彼のシナリオ通りに事が運ぶことを、分かっているかのようだった。 液体がトイレットペーパーで拭き取られた後、何も無かったように服装が整えられる。 ブースを出て正面の鏡に映る自分の顔は、恥ずかしいくらい紅潮していた。 「じゃ、行こうか」 そう言って歩く彼の後ろを、ぎこちない歩みでついていく。 不安の中に埋もれた一欠けらの悦楽。 その為に、彼の車に乗り込む。 車は首都高速へ入る。 若干混雑しているのか、車の流れはスローペースに感じる。 彼の左手がシートに沈む俺の太腿に触れ、股間へ静かに上がっていく。 「そろそろ、我慢出来ないかな?」 スラックスの上からでも分かる、自らの怒張。 この空間では、彼の赦し無しで何をすることも出来ない。 彼の手は、服の下で蠢くモノをしばらく撫で、離れていく。 「出してごらん」 得も言われない緊張が、身体中に走る。 腰の後ろで組んでいた手を解き、片方だけ前に出す。 暴れる鼓動を鎮めるようにネクタイを掴み、息を整えた。 サイドミラーには、追いかけて来る幾つものヘッドライトが映っていた。 -- 3 -- 若干きつく感じるファスナーを下ろしていく。 体内の異物による刺激が、動きを鈍らせる。 息を吐きながら、張り詰めたモノを取り出した。 空気に触れると共に、帯びた熱が蒸発していく寒気を感じる。 見苦しく垂れ流された液体を纏ったモノが、夜の仄かな光に照らされていた。 「触っちゃ、ダメだよ?」 刺激を求めるようにピクピクと跳ねる部位に手を伸ばすことすら出来ず 掻き毟る様にネクタイを緩め、ワイシャツのボタンを外していく。 恥ずかしさと、もどかしさ。 二つの感情から生まれる狂った欲求は シャツの中に差し込んだ手による上半身への愛撫だけでは、とても解消できそうも無かった。 不意に車のスピードが上がる。 左車線を走る車が、後ろに流れて行った。 一瞬俺の方へ向けられた視線が、前方を走るトラックに移る。 車列の波の動きが緩やかになってきたことを見越してか、車はトラックに併走するかのように隣につける。 高い位置にあるトラックの運転席からは、当然俺の姿が良く見えるはずだ。 視線を遮るものが無い状況が、興奮を呼ぶ。 緊張で軽く吐き気がする。 併走する車の運転席を見上げることは、出来なかった。 身悶える俺の背中を、彼の一言が押す。 「見て欲しいんでしょ?だったら、アピールしなきゃ」 フロントガラスの外側に展開する夜景が、僅かに霞む。 左側へ目をやると、トラックのドアに描かれた運送会社のロゴが目に入った。 逸る気持ちを静めながら、ゆっくりと視線を上げていく。 運転手と目が合った。 彼は奇異な物を見るような、蔑んだ表情を見せる。 冷や汗が吹き出るのを感じた。 露わになったモノに、昂ぶりが一気に集中するようだった。 尻の中の玩具が、その振動を激しくする。 思わず声が出た。 顔を歪めた隙に、トラックはスピードを上げて去っていく。 「事故らず、安全運転で行って欲しいね」 ダッシュボードにリモコンを放り投げた男は、そう笑いながら見物人を見送った。 卑しむ様な表情が、何度もフラッシュバックしてくる。 その度に、身体が徐々に追い詰められていく。 声も抑えられないほど、快楽に沈んでいる自分がいた。 腰が浮き、モノを高く突き出すような格好でシートに身を任せる。 行き過ぎる車の全てが、自分を見ているような錯覚に陥ってくる。 羞恥心は、もう、無かった。 車は首都高速を降り、郊外のファミレスの駐車場に停まる。 一番端のブースは、二方を鉄製の柵に囲まれていた。 モノを露わにしたまま、俺は車の陰に膝立ちになる。 側に立った男は、自らのモノを俺の顔の前に差し出し、軽く微笑んだ。 生温い風が、全身を包む。 前から回り込めば、確実に人に見られる場所。 そこで、俺は男のモノを口に含む。 快楽でおぼつかない身体を、車のドアに身を任せるように何とか保つ。 水音と激しい息遣いが、深夜の駐車場に響いた。 時折やって来る車のヘッドライトに身体を強張らせながら、男を絶頂へと引っ張る。 やがて、彼の手が俺の頭に添えられ、その動きを助長する。 苦しさが限界を迎える頃、彼は俺の口の中で果てた。 半開きになった口から、他人の精液が垂れていく。 吐き出す間もなく、彼は余韻を舐め取るようにと萎んだモノを口に押し付ける。 上目遣いの眼差しを投げながら、残った液体を丁寧に舐め取ると、彼はようやく赦しを口にした。 「次は、君の番だよ。見ててあげる」 しゃがんだ彼の視線を浴びながら、俺は自分のモノに手をかける。 車に身体を預けながら、一心不乱に扱く。 誰かに見られるかも知れないと思う恐怖は、あわよくば見られたいという欲求に変わっていた。 「良い眺めだね」 男が放つ静かで優しげな嘲笑が心を侵食するように、染み渡る。 抑えきれない声が闇に溶け、束の間の絶頂が身体を震わせた。 精液が柵とアスファルトに飛び散り、強烈な脱力感に襲われた身体が地面に沈む。 汗と精液に塗れたネクタイが、妙に重く感じた。 傍らの男の声が、うな垂れる俺の耳元で響く。 「もう、誰かに見られなきゃ、感じない身体になったかな?」 否定する言葉は、浮かばなかった。 きっと、俺の中にはもう、肯定する要素しか残っていなかったんだと思う。 -- 4 -- その夜、彼が向かったのは海沿いにある大きな公園だった。 何の予告も無く、何の準備も無い。 これから何が起こるのか分からない懸念を抱きながら、男の後ろをついて行く。 防風林の下のベンチに腰掛ける人影が見える。 その人物は、前を行く男に声をかけた。 「久しぶりだな。……新しい男か?」 街灯に照らされた男は、まるで品定めをするかのように、俺に視線を滑らせる。 連れは、その問に答える事無く、男に一つの頼みごとをした。 「ちょっと、人、集めて貰えるかな」 男たちの性欲の発散場所。 話に聞いたことはあったが、昼間は家族連れで賑わうようなこの公園が 夜にそんな姿を曝け出しているとは、想像することも難しかった。 風に揺れる木々が、より一層不気味に見える。 陰に隠れた男たちが、自分に視線を向けているような感覚に襲われる。 妄想だけで、身体が昂るようだった。 俺は男とセックスをしたいと思っている訳じゃ無い。 けれども、男に見られながら、虐げられる行為に身体を翻弄されている。 目の前の素性も知らない男に、いつか犯されるかも知れない。 そんな不安を凌駕するほど、衝動は激しかった。 周りを木で囲まれた街灯の下。 ポールに背を向けて立たされ、後ろ手に手錠をかけられる。 黒い風景の中に、一人、又一人と影が落ちていく。 「……何、を」 背後から上半身を弄る男に、意味の無い問いかけをする。 耳たぶを軽く愛撫しながら、彼は呟いた。 「君の、好きなことだよ」 ネクタイをそのままに、ワイシャツのボタンが外されていく。 中に来ているシャツをたくし上げられると、腹の辺りを潮風がくすぐった。 ほの暗い灯りに照らされた周囲には、幾人もの気配が感じられる。 唾を飲み込む音が、冷や汗と共に背中を落ちる。 「大丈夫、乱暴はさせないから」 ベルトを外す金属音が、辺りに響く。 聞こえるのは、風の音と微かな波の音と、押し殺したような荒い息。 異様な空間に包まれながら、俺は彼の手に全てを委ねる。 前を開けられたスラックスは下着と共に膝まで下ろされた。 男の手が、空気に晒されたモノを弄ぶ。 視線を落としたまま行為を受け入れていると、視界に男の足が入り込んだ。 「オレらには、分け前無い訳?」 目の前の男は、そう言いながら俺の顎を掴み、上を向かせる。 怯んだ表情をしていたであろう俺とは対照的な、好奇の目。 身が凍る思いだった。 「良いけど、セックスは、無しで頼むよ」 そう言って、背後の男は足元のバッグを蹴り上げる。 開いた口から、いかがわしい器具が顔を出した。 「しゃぶらせんのは?」 「構わないよ。……でも」 後ろから近づいた顔が、俺の頬に口付ける。 「大切なコなんでね、丁寧に扱ってくれる?」 鼻で笑いながら、下衆な笑みを浮かべた男は小さく頷いた。 連れが去っていくと共に、数人の男たちが近づいてくる。 「……待っ、て」 つい出てしまった言葉に、男が足を止め、振り向いた。 「大丈夫、ここで見てるよ。君だけを、見てる」 その台詞に何か思う間もなく、誰かの手がネクタイを引っ張る。 「彼氏のお墨付きも出たしな。思う存分、愉しもうぜ?」 何本もの手が身体の上を這って行く。 経験の無い状況に、感情はついて来れなかった。 外されたネクタイが地面に落ち、はだけたワイシャツから露わになった肩口に舌が滑る。 背後から回って来た手が胸板を弄り、その指が乳首を弾く。 「固くなってるねぇ。何が良い?ローター?クリップ?」 投げかけられる質問に、震える息を吐きながら、首を振ることしか出来ない。 バッグの中を物色していた男が、興味津々な表情で立ち上がり、近づいて来る。 「これ、ちょっと面白そうじゃね?」 「何だ、それ?」 「こうやってさ……」 男の手にあったのは、小さなスポイトのような物体。 彼はおもむろにそれを俺の乳首につけ、何回か押し込むような動きをする。 「う……あ」 吸引された乳首は強制的に勃起させられ、痺れるように痛む。 悶える顔は、もはや男たちにとっては欲情の促進剤にしかならないんだろう。 両方の突起へ付けられた器具は、やがて身体を快感へと引き摺っていく。 虚ろな目に映る光景に、人影は更に増したように見えた。 男を性的欲求の的として見る、露骨な視線。 誰かの指が、乳首を虐める器具を弾く。 「気持ちいい?」 嘲笑の混じるその声に、答えるべき言葉は一つだけだった。 「……は、い」 -- 5 -- 街灯のポールから発せられる甲高い金属音が響く。 弄ばれ続ける身体がふらつく度に、自分に自由が無いことを思い知らされる。 手や舌が、身体のあらゆるところを撫でていく。 注目を集めているであろう部分は、俄かに頭をもたげ、疼いていた。 背中に回された手が、徐々に下へ降り、腰周りを撫で始める。 歪んだ笑みを浮かべた男の顔が近づいて来た。 「そろそろ、ケツの中にも欲しくなって来たんじゃねぇのか?」 グロテスクな物体で頬を叩きながら、男は言葉を続ける。 「彼氏のもんだと思って、しっかりしゃぶれよ」 口先に突きつけられた派手なピンクの玩具。 その大きさにうろたえながら、口に含む。 圧倒的な量感に、苦しさが込み上げた。 喉の奥から呻き声が鳴るほど、男は物を奥へと押し込んでくる。 顎の痛みで視界が潤んで行くのに、この後の展開を想像するだに身体は昂る。 「美味しそうに舐めるとこ、皆に見せてやんな」 口の中が張り型から解放されると、根元からゆっくり舌を這わせ、無機質な感触を味わう。 唾液に塗れた物体は、街灯の些細な光に照らされて、やたらと眩しく見えた。 腰の辺りに冷たい感触が纏う。 垂らされた粘液は、緩やかに尻から足の付け根へと流れて行く。 背後に立っている男の手が、尻の割れ目をなぞり、肛門の辺りを解す様に弄る。 ピチャピチャと言う卑猥な水音が、背筋を強張らせた。 僅かに入り込んだ指の先が、前後に振れる。 「入れて欲しい?」 その言葉を合図にしたように、目の前の物体が離れていく。 「入れて欲しかったら、ちゃんと言ってみろよ」 照りを帯びた物は、ローションをかけられ、更に輝きを増す。 少し離れた所にある暗がりのベンチに、俺を貶めた男が座っている。 許しを求める必要なんて無いはずなのに、俺の言葉は、彼に向かっていた。 「入れて……下さい」 脚に絡み付いていた衣服が取り払われ、街灯の下にしゃがみ込むような体勢を取る。 地面に立てるように支えられたバイブレーターを、ゆっくりと飲み込んでいく。 窮屈な感覚が、息苦しさを呼ぶ。 その光景は、周りの見物人たちの興奮も呼び覚ましたようで 中には既に自らのモノを弄っている男もいた。 見られることから、見せつけることへと意識が変わっていたのかも知れない。 男たちの表情を眺めながら、少し大げさに身体を捩り、玩具を沈める。 「根元まで入ってるぞ?」 そんな男の声が聞こえると同時に、足を取られ、尻餅をついた。 持ち上げられた足が後ろから大きく開かされ、折れた膝の部分にロープがかかる。 「もっと、恥ずかしい格好、見て貰おうよ」 「……なっ」 「見られるの、好きなんでしょ?」 ロープが街灯のポールを周り、もう片方の膝に巻きつく。 鉄柱に背中を預ける不安定な体勢を、手錠で繋がれた手で支える。 宙に浮いた足の向こうに、卑しい笑みを湛えた目が無数にあった。 ひしゃげた身体の先には、先端から汁が染み出たモノと、深々と刺さった玩具。 誰かの手が伸びて来て、バイブを出し入れし始める。 快感が、電流となって身体を駆けた。 「は……あっ」 吐き出す息に、自然と声が混ざる。 「皆、君のこと、頭ん中でぐちゃぐちゃに犯してるよ?」 視姦される快感。 玩具の動きがスムーズになると共に、欲求は高まっていく。 「トロトロになるのが早いんじゃねぇのか?」 乱暴な動きがもたらす痛みと悦び。 自制する意識が飛ばされる。 玩具のスイッチが入り、腰が跳ねた。 骨に響くような振動と、腸壁を擦るようなうねり。 共振する様に、モノが痙攣する。 「チンポもたまんねぇみたいだな」 「もう、ビンビンになってるぞ?」 男たちの笑い声が、膨れる焦燥感を加速させる。 「おら、もっと啼けよ」 掻き混ぜられるように玩具を動かされ、最後のタガも外された。 「あっ……んああっ」 「いい声だね。皆に聞かせてあげなよ」 すぐ側から伸びてきた手がモノを静かに扱く。 幾つもの性感帯を一度に責められて、意識が一瞬散漫になるものの 間を置かず、身体の方々を巡る快感に心が溶かされていく。 喘ぐほどに気持ち良さが増幅するようで、声の大きさは如実に大きくなっていった。 -- 6 -- 糸が切れたように身体を支える力が抜け、背中にひんやりとした地面の温度が伝わる。 このまま官能に酔いしれていられたら。 そんな気分でいると、後ろから腕を抱えられ、身体が引き摺り上げられる。 「腰抜かすのは、まだ、早いでしょ」 目の前に、勃ちがおぼつかないモノが差し出される。 見上げると、仁王立ちになった男が、下品な笑みを浮かべながら俺を見ていた。 「一人で気持ち良くなってんじゃねぇぞ?」 無駄な抵抗をする必要は無い。 咽返る様な臭いが、まともじゃなくなっている脳を激しく揺さぶった。 鼻が潰れるほどの激しい腰使いが、口の中を嬲っていく。 えずきながら、逃げ場の無い苦痛に耐える。 絶え間ない悲鳴が見物客たちの興奮を促していたのだろうか。 薄くなる意識を呼び戻したのは、何処からともなく降り掛かってくる精液の感触。 咥えられるのを待てない男たちが、自ら欲求を発散しているらしかった。 身体中を汚していく白濁液。 男の威勢の良い喘ぎと共に、口内も生臭い物で満たされる。 気道が確保できないまま、口から吹き出た液体が目の前を白く染め 得も言われない快感に巻き込まれながら、意識が薄くなっていった。 曖昧な時間の中で、一体何本のモノを口に含んだのだろう。 知らない間に自分の身体の昂りは発散され、けれども狂乱の時間は終わらない。 ただひたすらに、男たちと欲望を貪り合う夜が過ぎて行く。 生温い水が、勢いよく頭の上からかけられる。 夢から覚めやらぬ、そんな気分で見上げた風景は、僅かに白んだ空に浮かぶ木々と一人の男。 あらゆる物理的拘束から解放された身体は、未だ肉体的な痛みに縛られていた。 男は何も言わず、その顔に複雑な笑みを浮かべながら 元の色が分からないほどになった衣服を脱がし、身体を丁寧に拭いてくれる。 至る所に残る痣や腫れが、自分の身に降りかかったことを思い起こさせた。 こうなることは、分かっていたのかも知れない。 彼に差し出された服に、ぎこちなくしか動かない身体を収めていく。 少しサイズが大きいのは、きっと、俺よりも大柄な彼の服なのだからだろう。 「立てるかい?」 そう言いながら差し出された手を掴まなければ、立ち上がることも出来ないくらい 身体は疲れと痛みで弱っていた。 彼の肩を借りながら、公園の中を歩く。 真夜中に見せた不穏な雰囲気は、顔を出しつつある朝日と共に消えていくようだった。 車に乗り込み、シートに身を預ける。 反対側のドアから乗り込んだ彼は、すぐにエンジンをかける事無く、俺に視線を向けていた。 虚ろな視界の中の彼の姿が大きくなる。 熱を帯びた彼の手が頬に触れ、擦れて痛む唇が柔らかい感触に包まれた。 男との、初めての口付け。 思いも寄らないほどの、淡い柔らかさ。 程なくして、傷を癒すように、その舌が唇をなぞって行く。 優しい官能が、危なげな夢を覚まさせる。 急に現実に引き戻された感情が、目を潤ませ、世界を歪ませた。 子供をあやす様に、彼は俺の頭を撫でながら呟いた。 「ごめん。取り返しのつかないこと、させたかな」 欲望が、転がり落ちるように醜くなっていることは、分かっていた。 自分でも怖くなるほどの情動を抱えるのに、耐えられなくなったのかも知れない。 男の肩に手をかけると、彼は俺の身体を抱き締めてくれた。 「怖がらなくて良い、オレは君の手を放したりしないから」 彼に導かれるように堕ちた、深い闇。 漂う先に、身を任せる場所がある幸せ。 強くなる腕の力が、それを実感させてくれた。 彼との関係も、淫らな秘め事も、何ら変わること無く続いている。 一つだけ変わったことは、彼との繋がりを常に感じていること。 時に縋るように、時に試すように、眼差しを交し合う。 快楽でもたらされた微睡む心を、彼の唇と体温が醒ましてくれる。 「もっと、俺を……見て」 「見てるよ。いつでも、君だけを見てる」 未だに、名前すら知らない関係。 それでも俺は、覚める事が約束されている夢を見る為に、今夜も彼の車に乗る。 Copyright 2011 まべちがわ All Rights Reserved.